第2話 はじめの街はスキップで



 キャラメイクが終わると、次に意識がゲーム世界へ集中する頃には、既に”アルテイシア”として『スーサイド・アルカディア』へと降り立っていた。


 辺りをぐるりと見渡すアルテイシア。首の動きに通じて、信じ難いほど精密に髪が靡く。


 辺りはどうやら森林地帯らしい。

 元となった『死にたがりな勇者』――略して『しにゆう』は、SFと異世界ファンタジーが混ざり合った世界観だからか、完全な森林地帯は見慣れない。



「……あんま感動ないな。こんな場所アニメで行った記憶も、行かなかった記憶もないし」


 

 アルテイシアはボソリと呟き、メニューウィンドウを開く。



――


アルテイシア LV.1

役職:特攻士バーサーカー


HP 50

攻撃 20

防御 5

魔法 5

魔防 5

素早さ 18

幸運 3


装備品

武器:アイアンソード

頭:なし

胸:なし

腰:なし

脚:なし


――



「このペラペラ装甲なのは……えぇと、私の役職『特攻士バーサーカー』の影響か」



 一口に冒険者といっても、それぞれ役職があるらしい。

 彼女の選んだ『特攻士』は読んで字の如く、攻撃するしか能のない狂戦士のこと。

 耐久はペラペラ、そのかわり攻撃性能はどの役職よりも高い。


 

 微かな後悔を抱きながらも、アルテイシアはとりあえず探索も兼ねて走ったり、飛んだり、跳ねたりしてみた。

 フルダイブゲームはのおかげで慣れてしまったため、あんまり感動はない。


「戦闘には早めに慣れておきたいなぁ……私


 とんでもない爆弾発言をする彼女を粛清しようと、敵エネミーが草陰から飛び出てくる。


 ぷるん、ぷるんとした液状の生命体――プリン。美味しそうな名前だが、れっきとしたモンスターだ。


「うわぁ! プリンが動いてる……! これは感動!」


 プリンは原作でも度々出番を貰えるモンスター。ぬいぐるみ化するほど人気のある愛されキャラでもある。


「じゃあ早速」


 アルテイシアは武器を装備した。

 華奢な彼女に似つかわしくない、両手持ちの巨大な剣。鉄製の両手剣『アイアンソード』。


 飛び跳ねたプリン。

 その軽々しいボディプレスを一ステップで回避してから、ぷるぷるボディへアイアンソードを叩き込む。


 プリンは弾け飛び、一撃で沈んだ。


 

 『LEVELUP!!』



 経験値が入り、レベルが一から二ヘ。大した変化はないが記念すべき一歩だ。

 経験値だけでなく、素材とお金――イートゥーがドロップした。


「”プリンのプリン体”って……なんか面白い」




 そこから何度かプリンと出くわし、その度に水しぶきに変えていった。

 戦闘を重ねることで分かったことがある。


 それは、このゲームは『リアル基準』ということだ。

 例を挙げるなら、攻撃した際の会心の一撃やクリティカルといったシステム。普通なら確率の元の現象に過ぎないが、このゲームでは弱点や急所という任意的に発生できる形で採用されている。


 つまるところ、弱点を叩けば大ダメージが出る……ということだ。



 森を抜けると、ようやく鬱蒼とした木だらけの視界に光が入り込んできた。



 

――はじまりの街【イーチノイチ】――




 さっきの森と違い、そんな表記が浮かんでくる。あそこはチュートリアルマップのようなものか。

 ファンタジーゲームにありがちな西洋の街ではなく、現代に普通にありそうな住宅街と商店が並んだ街だった。



「さて……このゲーム、チュートリアルミッションみたいなのが一切無いから困るけど――」



 アルテイシアは道行くNPCを何人か目で追ってから、人混みに活路が開かれた瞬間全力ダッシュを開始した。



「初期村は無視。できることなら、早いところ二桁レベルの敵と対峙して一気にレベルを上げたいなぁ」



 ほぼ下着姿同然の女が町中を全力疾走しているのを、最先端のAIが搭載されたNPC達は驚愕の目で見ていた。


 無論、このゲームはオンラインなのだからはじまりの街にはそれなりのプレイヤーがいる。

 NPCだけでなく、リアルの人間が操るプレイヤーも何人かいたことだろう。


 そんな視線を浴びせられようと、ゲームだからと気にせずに、アルテイシアは何もすることなくはじまりの街を抜けるのだった。




 ◇




 ―【漏月るいげつ渓谷けいこく】―



 次なるエリアは、漏月の渓谷。

 月、という文字が入っているのに真っ昼間に来たからか本来あるべきであろう趣が全くないように思えた。

 街を探索するうちに夜になって……というのが定石なのだろうか。


 渓谷内には廃棄された車やら建物の瓦礫やらで溢れている。

 こういう、世界観が読み取れるマップ構成もフルダイブゲームならではだ。


 車の上に乗り、今ある最大限の跳躍力を活かしてかなりの高所へ到達。

 どんどんどんどん、同じような手法で壁を登っていく。


 彼女の目当ては

 進めばいい話だろう、と言いたくなるだろう。


 この『スーサイド・アルカディア』はオープンワールド形式。普通のゲームのように決められた道を進む必要はない。

 もちろん、道を外れると相応のリスクはあるものの……どこから進めようとプレイヤーの自由なのだ。


 

 かなりの上層部まできた頃、流石に邪魔が入る。


 悍ましい形相の人型モンスター ゴブリン。


 ゴブリンは原作で一回だけ出てきたことがある。その役割は、年端もいかない女の子を寄って集ってやらしい事をする寸前で、主人公であるロナに撃退されるというカマセ役だが。


 原作通りものすごく弱く、呆気なく撃破することができた。


 その後もゴブリンの奇襲を受けたが、目当てであった渓谷からの脱出を見事果たすのだった。


「ここらでマップでも見ようか」


 マップウィンドウを開く。

 順当に行くなら、次は第二の街【ニヴァンノシティ】になるわけだが。

 美味しい経験値を得るために、レベルが二桁代の敵が出現するエリアに降り立ちたい。


 レベルは5になり、紙装甲高火力のステータスも順当な上がり方をしている。


 ここは【ニヴァンメシティ】と第二のエリア【煤降すすふりの黒原】を越えた先にある第三のエリア【煤被すすかぶりの鉄林】を目指すことにした。



「の前に……」



 アルテイシアは自分の姿を見直す。

 素肌丸出しの下着同然の姿……紙装甲なのだから防具をいくら着込んだ所で変わらないが、これから他プレイヤーも多くなる。

 ゲームとはいえ、女は捨てたくない。


 アルテイシアはメニューウィンドウを開き、売っぱらうつもりだった初期防具『アドベンチャーシリーズ』を胸、腰、足だけ装備した。

 素朴な布の貧乏くさい服だが、無いより断然マシだ。



「今までソロゲーばかりだったから……そういうところの倫理が壊れてるのかな、私」





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2024年10月26日 12:00

スーサイド・アルカディア 〜大好きなキャラに会いたいだけなのに〜 聖家ヒロ @Dinohiro

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