夜、歌舞伎町、異変
恥目司
とある街頭インタビュー
歌舞伎町——
以下は、とあるニュース番組のインタビュー映像である。
——カメラが黒いスーツを着た白髪の青年に回る。
『すみません。ニュース(番組名)なのですが、ちょっといいですかね…』
「あぁ、いいですよ」
『ありがとうございます。それで今日はどんな御用で
「俺、クラブのホストなんですよ。しがないクラブですけど…」
『あぁ、そうですか。いつぐらいからホストを?』
「もう五年くらいかな……あんまし売れてないからね」
『それは大変ですね…』
「いやいや、ホストなんて大体そんなモンですよ。人気なのは、ほんの僅かですし」
『そうですか……それでは早速ですが本題に移ってよろしいでしょうか?』
「本題ですか?良いですけど……」
——すると横から白スーツのホストが割り込んで写る。
「あれ、ピノじゃん。何してんの?」
「あ、ニートさん。いや、ちょっとインタビューを」
「ええ、インタビュー?俺にやらせてよ」
「いや、そういうやつじゃないですけど…」
「いいじゃん。お前どうせ売名しても売れないし」
「……」
「ほら、この金で好きなラーメンでも食ってこい」
——“ピノ”が申し訳無さそうにカメラからフェードアウトする。
代わりに笑顔の白スーツの男にインタビューを行う。
「それで、何のインタビューしてんの?」
『え、あぁ、えーと…そうだ。最近の歌舞伎町での異変とかに気づいた事はありますか?』
「異変?何ソレ」
『例えばですね。最近ホストが失踪するとかキャバクラやクラブ突然消えるとか…』
「何その怪奇現象。怖っ!!」
『え、無いんですか』
「聞いたことないね、そんなの……あ、でも」
『でも?』
「何かデッカい男が路地裏に入って行くのを見た事があるっスね」
『男?』
「うん。デッカい男。いや、男……うん、男だ。あんなのが女な訳がない。顔がトドみたいでさ。ゾンビゲーの中ボスにいそうな感じだったわ」
『トド顔の……男ですか?』
「そうそう。そこのピノも見てるだろ?」
——ピノにカメラを向ける。どこからか買ってきたラーメンを啜りながらうんうんと頷くピノ。
スープも飲み干して、ラーメンの器を路上に置く。
「確かに、そこのラーメン屋でラーメン食った時に奥の方に3メートルぐらいの男がいましたね。その時は背中だけだったんで、どんな顔かは分かりませんでしたが……でも肩幅も大きくて奥にいても目立ちましたね」
「な、見てるだろ?ホント怖くてさ。アレには近づきたくないね」
再び白スーツのホストにカメラが回る。
『そうですか…今日はありがとうございました。また機会があれば是非…』
「え、もう終わり?」
『は、はい終わりです』
「え、コレなんて言う番組?」
『ニュース(番組名)ですが…』
「ニュースでも、俺達の顔が全国に映るってコトだよね?母ちゃん見てるー?」
『いや、プライバシーの観点からモザイク処理をかけて……』
「なんだよー本当に普通の取材かよ」
「だから言ったじゃないですか"そんなやつじゃないです"って」
「せっかく、母ちゃんに報告しようとしてたのにー!!」
——インタビュー終了。
補遺:その後、再びこのホストの"ピノ”を直撃しようとしたが、どのクラブにもいなかった。
ピノというホストは存在しないという。
更に聞けば、もう一人の白いスーツのホストは、あのインタビューの直後に失踪したという。
夜、歌舞伎町、異変 恥目司 @hajimetsukasa
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