マジカル・ガール・スレイヤー 〜この腐った世界を滅ぼすためなら人類裏切ろうが頑張ります〜

益井久春

第1巻(風)「夢を打ち壊せ」

第1話 夢を打ち壊せ

「悪は必ず打ち倒す!魔法少女ミラクルアンバーの名にかけて……」


琥珀色の髪と瞳をし、同じ色を基調としたドレスを身に纏う魔法少女が敵に向かってビームを放ち、少年とその妹を二人を襲っていた怪物から守った。


「あ、あの……」


その様子を見ていた少年、清羅セイラ ツトムは、自分を助けてくれたミラクルアンバーに向かって詰め寄る。


「あ、あの、助けてくれてありがとうございます。僕でもあなたみたいになれますか?どうしても力になりたいんです」


ミラクルアンバーはそれを聞いて思わず吹き出した後、軽蔑を込めた目で清羅を見る。


「アンタ何馬鹿なこと言ってんの?男子が魔法少女になれるわけないじゃん。現実見な?アンタたち男は力仕事でもやってなさいよ。アンタの横にいる女の子だったらまだしもさぁ……」


そう言いながら再び軽蔑を込めた笑い声をあげるアンバーを見て、少年の心の中で、何かが壊れる音がした。


————


それから7年が経ち、清羅は中学3年生になっていた。


「ねえ、みんなは進路どうする?」


「就職に決まってるだろ。今じゃ男が行ける高校は限られてきてるし、大学は全部女子大になってる。公務員なんか夢のまた夢だし、政治に関しては出馬はおろか投票すらできない。だから建設とかそういう力仕事が男の進路の基本になってきてるんだよ」


「……確かにそれもそうだね」


「特に結婚したやつなんかは、その後力仕事しながらお嫁さんに家事任せられるんだからマジで大変だよなー」


「あはは……それに給料は少ないし、通勤電車は常に身動きが取れないほど満員だし、出世の道は絶望的だし、デートでは奢らないといけないし、サービスでは女性無料のところを男は払わないといけないし、選挙権はないのに重税は貸されるしで……」


「そう考えると男として生きるのってクソじゃね?」


「やばい。否定の言葉が出ない……」


清羅は近くの男子中学校に通い、クラスメイトと進路の話をしていた。この世界では、共学校なんてものは絶滅していたのだ。


——50年ほど前。

呪魔のろいま」と呼ばれる謎の存在が突如として世界を侵略し始め、それと同時に「妖精」が人類を助けるために世界中に姿を現した。妖精と契約した者は魔法少女になることができ、呪魔のろいまを倒す力を手に入れることができる。


しかし、妖精と契約して魔法少女になることができるのは女性のみであり、男性はどうやっても呪魔のろいまを倒すことができないのであった。


そこで世界は圧倒的な女尊男卑社会になり、前述した通り男にとって地獄に近い世界になっている。


魔法少女が呪魔のろいまと戦う際に男のことを守ってくれることはなく、むしろ邪魔者扱いする始末だ。


「どうせこんな男臭い場所、呪魔のろいまが現れても魔法少女が守ってくれないよなー」


「おい、冗談のつもりで言ってるだろうがそれはマジだぞ。呪魔のろいまは女が集まってる施設よりかは、男が集まってる施設の方に現れやすい。非力なことがわかってるからな。その上俺たち男は女に比べて消耗品扱いを受けているから、一人や二人死んだところで魔法少女はすぐに助けに来てくれない。だから常に死と隣り合わせに生きてると思った方がいいぞ」


「マジか……ん?」


しばらくすると、清羅の隣の窓の近くに、漠然とした黒いモヤの塊が現れる。これは呪魔のろいまが現れる時のゲート「穢門わいもん」であり、これを見かけたら逃げることが推奨されている。


「おい、穢門わいもんだぞ!呪魔のろいまが出てくる!逃げろ!」


近くのクラスメイトたちが逃げ出す。ぼーっとしていた清羅はガラスを貫いてやってくる呪魔のろいまに衝突し、体を乗っ取られてしまった。


「ノットリ……セイコウ……」


清羅の体を乗っ取った呪魔のろいまは笑いながらそういう。清羅の顔は黒く、目は真紅に染まり、ツノと牙が生え、体全体から黒い煙が噴き出す。典型的な呪魔のろいま憑依者の特徴だ。


呪魔のろいまに乗っ取られた清羅はしばらく教室で虐殺を行い、何人かの逃走者を残してクラスメイトを皆殺しにした。


清羅はその後、隣のクラスの生徒や教師も殺した。しかし、隣クラスで授業をしていた女性教師を殺した時に、生き残っていた隣のクラスの生徒に通報されてしまった。


そうやって学校で殺しを行い続ける一方で、清羅は心の中で侵食されないように強く耐え続けていた。


(ナンダ……タエルノカ……オマエ……)


「うおおおおおおおおおおお!」


強靭な『何か』によって完全に乗っ取られ、後戻りできなくなる事態を避けた清羅。彼の皮膚はだんだんと元の色を取り戻した。それと同時に、清羅は自分の体を再び制御できるようになり、周囲の情景を見渡した。


「なんだ、これ……おい呪魔のろいま、これ全部お前がやったのか?」


(ソウダ……オレト……オマエダ……)


それを見た清羅は後戻りができない無力感と絶望に苛まれた。思わず立ち止まる清羅は、絶望を通り越して一筋の希望すら見出した。


「ありがとう、呪魔のろいま。僕、やっと全てを解放できそうだ」


(ニンゲンガ……オレニ……カンシャ……?)


「ああ、そうだ。僕はお前に感謝する」


(……ヘンナヤツダ……)


しばらく虚に笑っていると、彼の前に箒で魔法少女が突撃してきた。なんと、彼が子供時代に見た魔法少女、ミラクルアンバーその人だったのだ。


「顔色が普通……?変な呪魔のろいまね。まあ、とりあえず倒すわ」


そう言ってミラクルアンバーはステッキを目の前に突きつける。一瞬ステッキが赤く光ると、その戦闘する光景を見ていた清羅は一瞬で判断し、放たれるビームを高い身体能力を利用して左によけた。


「何故?私の攻撃を理解して避けるなんて……」


「僕だからだよ。覚えてるかい?僕は覚えてるよ。君が僕の夢を台無しにして笑ったんだからね……」


「えっ……あっ、思い出した。夢を台無しも何も……私は事実をいっただけだけど。それに私はアンタの命を助けてあげたんだよ。むしろ感謝して死ぬべきじゃない?」


「ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるな。僕の夢を笑った人を恩人とは言いたくない。これでもくらえ」


そう言い、清羅はミラクルアンバーを殴打する。攻撃を避けられると思っていなかった彼女も清羅を攻撃しようとするが、彼女が次にビームを打てるようになるまでは5分もかかるので、ステッキで殴るぐらいしか攻撃の方法はなかった。しかし、防御力も強化されている今の清羅にそれは効かない。


結果、アンバーは清羅に次々と殴られる。目を潰され、骨を何本も折られ、その度に彼女は苦痛の叫び声を上げる。


「恩を仇で返すなんて……最低……」


彼女はそう言って息絶えた。


「ふぅ。とりあえずはこれで一件落着」


清羅がそう言って安心していると、隣に突如として穢門わいもんが現れ、そこから3人の角が生えた男女が姿を表す。その登場に清羅は当然ながら驚いた。


「まさか呪魔のろいまに耐える人が現れるなんてね……それも強力な味方になるとみた。君、僕たちに協力してくれないかな?」


「あ、あなた方は?」


「俺たちは呪魔のろいまの長、九凶星きゅうきょうせいだ。今は3人しかいないがな。お前が面白いことをした上に魔法少女を倒してくれたからな……こうして迎えにきてやったんだ。どうだ、俺たちの軍に入らないか?」


「というと?」


「妾たちは今、魔法少女との戦いに明け暮れてるのよ。そこで強い人材を積極的に探してる。1日3食に寝床も与えるし、いつでも力をしまっておくことができるようにしてあげるわ。どう?悪い提案じゃないでしょ?」


そう言われた清羅は覚悟を決めていた。


どうせこのままずっと生きていても正義の味方にはなれない。ずっとモブキャラクターとして、社会の底辺としてずっとずっと生き続ける。


正義の味方になれないのなら、悪の手先になってやる。


その思いでいっぱいだった。


「よろしくお願いします、みなさん」


「賢明だね。それじゃあ一緒に人類を滅ぼそう」


「はい!」


こうして、人類への彼の復讐劇が始まった。

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