第31話 打ちあがる花火
夜が明け、花火大会当日がやってきた。
夕方になり、辺りが暗くなり、
夜空に星が輝き始める。
仕事を終えた美緒は、想汰から指定された
場所に向かった。
彼が、待ち合わせに選んだ場所は、
昔、美緒が朝陽と一緒に花火を観た場所だった。
美緒の脳裏に朝陽との想い出が蘇る……。
「美緒先生! 遅いよ~」
想汰が美緒を呼ぶ声がした。
暗闇の中から、想汰が現れた。
「想汰君……。ごめんね、遅くなって」
笑顔で想汰に駆け寄る美緒。
「先生、花火もうすぐ始まるよ」
と優しく微笑む想汰。
彼の大人びた微笑みに少し戸惑う美緒。
想汰の横に立つと、夜空を見上げた。
ヒュ~、ドン……ドドン。
大きな音と同時に夏の夜空に花火が上がった。
色とりどりに打ちあがる花火。
夜空を見上げる想汰と美緒……。
「うわぁ~想汰君きれいだね」
無邪気な顔をした美緒が隣に立つ想汰に
話かける。
そんな美緒の顔を見た想汰は少し戸惑いながら
「ああ、綺麗だな……」と呟いた。
暫くすると、美緒は飲み物を買って来ると言って
自動販売機に向かって歩いて行った。
美緒の後姿を見つめる想汰。
心の底から、美緒への想いが込み上げてくる……。
想汰は、背後に気配を感じ振り向むくと、
朝陽が立っていた。
「朝陽さん……俺」呟く想汰
朝陽が想汰の前に立つと、
「想汰、無理するな。
俺は、おまえのこれからの時間を奪うつもりは
ないんだよ……。
おまえが望むなら、美緒と想汰のいつか訪れる
未来の時間を大切にしてもいいんだよ」
朝陽はそう言うと彼に背を向け歩き出した。
朝陽の後姿を見た想汰が叫んだ。
「ちがうんだ。朝陽さん、ちがうんだよ。
俺、あの事故の日から今まで、ずっと、ずっと
後悔してた。ずっと苦しかった……。
あの時、俺が車道に飛び出しさえしなければ、
朝陽さんは死なずに美緒先生と
幸せな時間を重ねてたんだろうなって……。
俺が、二人の大切な時間を奪ってしまった。
だから、時間をあの日まで遡れることが
出来るのなら、これが一番で……。
あの夏の夜に時人さんと交わした約束を
俺は守りたい。
俺の心からの願いなんだ……」
「想汰……」呟く朝陽。
「俺、ふたりの記憶が無くなっても、
いつか何処かで巡り会えるって思ってるから」
想汰が朝陽に言った。
想汰の前から朝陽の姿が消え、同時に美緒が
飲み物を持って想汰のもとに戻って来た。
「想汰君、どうしたの?」と美緒が想汰の顔を
覗き込んだ。
「美緒先生が戻って来ないから、寂しかった~」
とおどける想汰。
「も~、想汰君、茶化さないで」
口を尖らす美緒。
夜空に打ちあがる花火が、二人を照らし出す。
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