第19話 消えた朝陽とスーツの男

 「え? 朝陽が消えた?」

 想汰君から昨夜美緒と別れた直後のことを

聞かされた彼は、驚き、一気に不安が募る。


 「朝陽……また、突然消えちゃったのかな?」

 と呟く美緒に、想汰君が言った。

 「先生、まだ消えてしまったどうかは

わかんないよ。

 聡さんや智美さんにも連絡しておいたほうが

いいと思う」


 想汰君からそう言われると、美緒は聡と智美に

連絡を入れる。

 聡と智美も、美緒同様に驚き動揺していたが、

聡の提案で、今夜、美緒の家に集合することに

した。

 「朝陽君……江口君……」

 朝陽は、自分を呼ぶ声で目を覚ました。


 真っ暗闇の中に、

彼の身体を包み込む靄。

 朝陽が起き上がると、目の前に

白いスーツ姿の男が立っていた。



 「痛てて……俺、どこか打ったのかな?」


 「ハハハ……そんなことは、ありませんよ。

 多分着地した時に軽く打ったんでしょうね」

 とスーツの男が言った。


 「ところで、あなたは誰?俺のことを連れに来た

その……俗に言う『あの世の番人』

みたいな方ですか?」


 「ははは、朝陽君は本当に面白い人だな。

 今時『あの世の番人』だなんて、

テレビの見過ぎですよ」


 「じゃあ、何なんですか?」朝陽が彼に聞いた。

 「う~ん、一言で言うと僕は『時の管理人』

かな?」

 「『時の管理人』?」


 「まぁ、正確に言うと、『夜さり人』……

ほら、昔『竹取物語』出て来る、燕の子安貝、

『さらに、夜さりこの寮(つかさ)に

まうで来(こ)』

 もう一度、今夜、この寮に参りなさい。

 つまり 私は夜と時間を管理できる者の

ことなんだよ」


 「そう……夜の闇と時間を自由に管理

できるんだ」

 「そうですか。でも、なんで、その

『夜さり人』のあなたが、俺の前に 

現れたんですか?」


 「あ~、依頼を受けてね。

 探しに来たんだよ……。

 だって……君、死後の世界に行かずに、

時間の中を漂ってたみたいだったからね」


 「死後の世界に行かずに時間の中を漂う?」

 と朝陽が聞いた。


 「そう。たまにあるんだよね……。

 突然、事故などで亡くなった人は、

自分が亡くなったことに

気がつかないことが多いんだ。

 その人の『想い』や『残された記憶』

あと『願望』などが強い場合、

死後の世界には行かずに

時間の中を漂ってしまう……。

 そして、残された強いエネルギーが

擬人化してしまい、何かのきっかけで

この世に降り立ってしまう。

 それが、君……江口朝陽君に起こって

しまった……というわけだ」


 「そうか! 俺が、美緒たちの前に

突然現れたのは、それが原因だったんだ」


 「正確に言うと、『君が過ごすはずだった時間』を

エネルギーとして強烈に受けた者を介して、

この世に降り立つことが出来たということかな」


  「俺が助けた想汰君が

『俺が過ごすはずだった時間』

のエネルギーを受けてしまったというわけか。

 ん? でも、聡、彼はどうしてなんだ?」

 と朝陽が『夜さり人』の彼に聞いた。


 「まぁ、彼は、たまたまですね……。

 あなたとはエネルギーの波長があった……

だけですね」と言った。


 「それから、私の名前は時人(ときと)

と申します」

 とスーツを着た夜さり人は自分の名前を名乗った。

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