第18話 彼と彼

 朝陽の初盆参りの次の日、

美緒は、学習塾に向かって通りを歩いていた。

 「美緒先生……」と後ろから声がした。

 彼女が振り向くと、想汰君とその横に朝陽が

立っていた。

 「二人してどうしたの?」と美緒が尋ねた。


 「俺は、美緒に会いに来たの。

 だって、美緒に会うには、聡か想汰君の

協力が必要だから……」


 「それはわかるけど……

でも、想汰君はいいの?」

 美緒が想汰君に聞いた。

 「僕はいいんです。でも、暫く先生は

僕と一緒に過ごすことになりますけど……」

 「あ……そういうことか」と納得する美緒。


 「そういうことだ……。

 想汰君、俺たちに協力してくれるそうだ!」

 と朝陽が嬉しそうに言った。


 それからは、想汰君が塾の間、朝陽は、

塾の部屋の中で過ごしたり、

聡の前に現れたりと想汰君と聡を介して

美緒と過ごす時間を増やしていった。


 「美緒先生……来週の花火大会、先生も

朝陽さんと行くの?」と想汰君が美緒に聞いた。


 「うん……。行くよ、あと朝陽の友達と四人で」

 「そうか……」と呟く想汰君。

 「想汰君どうしたの?」と心配する美緒。


 「想汰……おまえも一緒に行くか?

 花火大会」と朝陽が言った。

 「え? 朝陽さん、僕も一緒にいいの?」

 と想汰君が嬉しそうに言った。


 「ああ、いいさ、なっ! 美緒」

 「そうだね。いいよ、想汰君も一緒に

花火大会に行こう」

 「ありがとう……。朝陽さん、美緒先生」

 想汰君が満面の笑みで二人にお礼を言った。



 バイトが終わり、塾を出て歩きだした

美緒は神社の前を通りかかった。

 「美緒先生……」美緒を呼ぶ声がした。


 神社の鳥居のところに、想汰君と朝陽が

立っていた。

 「想汰君。朝陽……。」少し驚く美緒。

 「先生に会いたいって朝陽さんが

僕の所に来たから連れて来たの」


 時間は、夜の八時を過ぎていた……。


 「こんな時間に小学生を、

いくら何でも朝陽、だめだよ」

 と少し語気を強めた美緒。


 「ごめん、美緒……美緒に会いたくて……

つい、わがまま言っちゃった。

 想汰君ごめんね」と二人に謝る朝陽。


 小さな溜息をついた美緒は、

 「でも、せっかくだから、少しだけなら……」

 と言うと境内入り口の石段を指差した。


 石段に座る、朝陽と想汰君と美緒、

特に話をすることなく夜空に輝く星を

見る二人。


 美緒の左には、目をキラキラとさせた

想太君、右には優しく微笑む朝陽。

 二人の間で、夜空を見上げる美緒。


 美緒は幸福感に満たされた心地よい

穏やかな気持ちになっていくのが

わかった。


 「美緒、一人で大丈夫か?」と朝陽が声をかける。

 「大丈夫だよ。それより、想汰君を……」

 と想太君を気がける美緒。

 「わかったよ。俺がちゃんと想汰君の家まで

ついていくから……」と朝陽が言った。


 「じゃあ、二人とも、おやすみなさい」

 美緒が微笑んだ。

 「美緒、おやすみ」

 「先生、おやすみなさい」


 神社の鳥居で別れた三人は家路につく。


 想汰君と並んで歩く朝陽。

 「想汰、今夜は、ごめんな……つき合わせて」

 朝陽は想汰君にすまなさそうに言った。


 「朝陽さん、僕は大丈夫だよ」

 と微笑む想汰君。


 「おまえ~大人だな……」

 想汰君の肩に手を回す朝陽


 その時だった。

 「江口朝陽さんですね?」朝陽を呼ぶ声がした。


 朝陽と想汰君が声がした方を見ると、

上下白のスーツを着た男が立っていた。


 「えっと……どちら様ですかね?」

 朝陽が尋ねた。

 「朝陽さん、この人、僕と同じで

朝陽さんのことが見えてる」

 と想汰君が呟いた。


 「え? 本当だ」と朝陽が言った瞬間、

白い靄が朝陽を包み込むと、

一瞬で靄と朝陽、そしてスーツの男が

消えた。

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夏の夜空に 由南りさ @yaku7227

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