第15話 彼等の夏

 次の日、聡に言われた通り、

智美と美緒は彼の家に行くことになった。


 「聡からさ、昨夜、連絡があって

朝陽君の初盆参りの打ち合わせ?

 に美緒と一緒に来いって言われて……

美緒、ごめんね……でも何なんだろうね?」

 と首を傾げる智美に美緒は、

 「そ、そうだね、なんだろうね?」

 と答える。

 聡の家についた二人は、

聡の母親に出迎えられる。

 

 そして、智美が聡の部屋のドアを開けると、

部屋の中には聡がいて、

聡の隣には……

 「よぅ! 智美ちゃん、久しぶり」

 と陽気に挨拶をする朝陽の姿。


 朝陽の姿を見た智美は、

 「キャ~」と悲鳴を上げ、美緒に

しがみつく。


 智美に悲鳴に驚いた聡は慌てて

彼女の口を手で覆った。

 「んん……ん~!」と朝陽を指さす智美。


 「智美ちゃんのリアクション

が一番リアルだよね……」と笑う朝陽。

 智美の口を抑えながら聡は、

 「智美にも朝陽の姿が見えてる。

 これで、俺等、四人……久しぶりに

揃ったな……と聡が美緒の顔を見て

笑った。


 「うん……」嬉しそうにな顔をする美緒。

 トントントン……。

 ドアをノックする音がした。

 「なんか、今 智美ちゃんの叫び声

聞こえたけど……」と聡の母親が

ジュースとお菓子を運んで来た。

智美の口を手で押さえている息子の姿を見た

母親……。

 「あんた、智美ちゃんに何してんのよ……」

 と言った。

 「あ……えっと、これは……」慌てる聡。

 「あの、これはですね……練習、

アルバイトの練習……」と美緒が言った。

 「練習? アルバイトの?」と母親が尋ねた。

 「はい……お化け屋敷の効果音の……」

 と口からでまかせを言う美緒。

 「そう、最近は、色んなバイトがあるのね。

 まぁ、近所迷惑にならないようにほどほどにね」

 と言うと母親は部屋のドアを閉めた。


 「はぁ~よかった」と安堵する聡と美緒。

 「美緒、凄いな……。

 咄嗟にあんなこと言えるなんて」

 と感心する朝陽。

 「だって、仕方ないでしょ! それより、聡君

智美の手を……」と美緒が言った。

 「ああ……」聡は智美の口を覆っていた手を

外した。


 「ぷはぁ~ 苦しかった」と息を整える智美に

 「智美……ごめん、悪かった」と謝る聡。


 「いいよ。でも、どういうこと? その……

死んだはずの朝陽君がどうしてここにいるの?

 私は、何を見てるの?

 現実的にありえないんだけど」

 と驚いた様子の智美。


 朝陽と聡は、一連のことを智美に説明をした。


 「え~! じゃあ、今 目の前にいる朝陽君は

何故か理由はわかんないけど、

突然、皆の前に現れて……ここにいる……。

 でも、朝陽君のことが見える人と見えない人に

分かれる。

 朝陽君が現れる条件としては、

聡もしくは、美緒の塾の生徒の想汰君が

いるときのみ……。

 なんか、凄いね……。まるでファンタジー小説

みたいだね。死んだ人が生き返るみたいな……。

 凄いよね、美緒! そう思わない?」

 と目をキラキラさせながら智美が言った。


 「うん……朝陽にまた会えて 

物凄く嬉しいはずなのに……

いつか、また急に目の前から

いなくなるんじゃないかって。

 だって、実際に、朝陽はこの世には

いないから……」

 と呟く美緒。


 悲しそうな顔をする美緒に朝陽は、

 「美緒、そんな顔するなよ。

 この夏、また会えたんだから、

まぁ、よくわからない変な状況だけど……

 でも、俺は美緒や聡、智美ちゃんに会えて

普通に話せて、物凄くうれしいよ……。

 だから、今年の夏も一緒に楽しく過ごそう

ほら、美緒! 笑ってよ」

 と優しく微笑むと美緒の頭を優しく撫でた。

 「うん。そうだね、朝陽の言う通りだね。

 また、こうして会えた……ごめん朝陽」

 と美緒も朝陽の顔を見て微笑んだ。


 朝陽は、そっと腕の中に美緒を包み込んだ。



 「コッホン……」と咳ばらいをする聡。

 朝陽が美緒から身体を離す……。


 「その……盛り上がってる最中、大変申し訳ない

俺は……その、朝陽が美緒ちゃんに触れる時には

必ずいなくてはならないんだよな……」

 と言った。


 「まぁ、そういうことになるな……。

 だって、聡おまえか想汰君がいないと

俺は現れることが出来ないし、

色んな物に触れることが出来ない 

らしいからな……。

 だから、聡、そういうことだ……悪い!」

 と手を合わせ謝る朝陽……。


 「面倒くさいと言うか……

よかったねと言うべきか」と智美が言った。


 「どちらにせよ、

俺たち二人は会えるだけでも満足だから……

なぁ、美緒」朝陽が美緒に話かけた。


 「うん。今年の夏も朝陽が傍にいてくれる

それが、一瞬の出来事でも、私はそれでもいい」

 美緒がみんなに言った。


 「じゃあ、今年の夏も楽しく過ごそう」

 と智美が言った。

 「そうだな。じゃあ、手始めに、

朝陽の初盆参りだな……」と聡が言った。


 「……」三人が黙り込んだ。


 「あ……ごめん」と頭を掻く聡。


 大笑いする朝陽、美緒、智美、そして聡……。


 十九歳の夏……


 季節は、八月……。



 朝陽が亡くなってから、初めての夏、


朝陽の初盆がやってこようとしていた。

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