第13話 あの日の夜

 陽は、事故で亡くなった

あの日のことについて話し出した。


 「俺は、あの日、美緒と待ち合わせの場所に

行く途中……想汰君をかばって車にはねられ

死んじゃったんだけど……

気がついたら、見知らぬ部屋に立っていた」


 「見知らぬ部屋?」と美緒が聞いた。


 「そう……。見知らぬ部屋……」と言うと

朝陽は想汰君の顔を見た。

 

 時間は、一年前の朝陽が亡くなった日に遡る。

 「想汰をかばってくれた男の子……

亡くなったそうだ」と想汰君の父親が

母親に言った。


 「そう……」と呟く母親に父親が、

 「想汰には私からそのことを伝える」

 病院の処置室で、その事実を知らされた想汰君、

下を向いて黙り込んだ。


 警察に事情を聴かれた想汰君だったが、

警察は、事故を起こした運転手を

現行犯逮捕したことを想汰君のご両親に

伝えた。

 もちろん、朝陽の両親にも事故の

一連の経緯が伝えられた。


 夕方、両親に付き添われた想汰君は自宅へ戻ると

自分の部屋に入り深い溜息をついた。

ベッドの上に転がり天井を見つめる……。


 想汰君の視線がベッド横に移動すると、

彼は思わず起き上がり息を飲んだ。


 ベッドの横に一人の男性が立っており、

彼は、恐る恐る声を掛けた……。


 「お兄ちゃん、僕を助けてくれた人?」

 「え? ここ何処だ? 君、誰?」

 想汰君の言葉に反応する男性。


 数時間前に交通事故に遭って、

亡くなったはずの朝陽だった。


 「お兄ちゃん、生きてたの?

 身体大丈夫?何で動けるの?」

 次々と質問する想汰君に、

 「ちょ~っと待て! 少し整理させてくれ!」

 と彼の質問を静止した。


 互いに向き合って立つ朝陽と想汰君……

 「コホン、じゃあ、俺からね……」

 と朝陽が言うと、想汰君が頷く。


 「まず……俺は、今日 美緒との

待ち合わせ場所に歩いて行ってた。

 その時に、君が車道に飛び出たのが

見えた。咄嗟に、俺も飛び出して

君を抱きしめ、振り返ると、

クラクションを鳴らした車と衝突した。

 身体が宙に舞って……目を開けると

君が心配そうに俺を見てた。

 そして、目の前が真っ暗になってさ……

で、次に目を開けたら、この部屋に

いたってこと……」


 朝陽の話を聞いた想汰君も、事故の詳細と

今日起こった出来事を朝陽に話した。

 想汰君が朝陽にすべてを話し終える頃には

彼は涙を流し、朝陽の前に膝まづき両手を

床につけ頭を下げた。


 「お兄ちゃん、ごめんなさい。僕のせいで」

 と泣きながら謝る想汰君。


 想汰君からすべてを聞かされた朝陽は、

遠くを見るような表情で、

 「そうか……俺、死んじゃったのか……。

 どうりで……」と言うと想汰君の頭を

撫でながら、

 「もう、いいよ。頭上げて、君名前は?」

 と優しく微笑んだ。


 「想汰……村上想汰、お兄ちゃんは?」

 「俺? 俺の名前は、朝陽……江口朝陽」

 「朝陽……朝陽さん……」と想汰君が呟いた。


 朝陽が、「想汰……もう気にするな……

俺は、おまえを恨んでここにいるんじゃないから

まぁ、俺自身も、自分が亡くなってる事実に

驚き、そして、正直今の状況を 

把握できてないんだよ」


 「朝陽さん、本当に、その……

幽霊なんですよね?」

 「うん。多分、ってか幽霊……」


 「でも……普通に見えてるし、

僕に普通に触れてる。

 僕も触れられてる感覚があるし……」

 「そうなんだよ……

俺もそれが不思議なんだよな。

 まぁ、そういうことで、これからどうなるか

自分自身わからないけど……

とりあえずそういうことだから……じゃあ!」

 と言うと朝陽は想汰君の前から消えた。

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