第12話 あの日……

 境内に立つ、死んだはずの朝陽と想汰君。

 激しく動揺し、頭が混乱している美緒。

 美緒の様子を見た二人は顔を見合わせると

ゆっくりと頷いた。


 想汰君は美緒に近づくと、

 「美緒先生、今から僕の言うことを

驚かずに聞いてほしいんだ。

 先生、僕は一年前に、先生の恋人

朝陽さんが命を懸けて助けてくれた

子供なんだ。

 あの日、僕は塾へ遅刻しそうになり

歩道を走っていた。休みの日で

通行している人混みをかき分けるように

走ってて、間に合わないと思った僕は

歩道から車道に出たんだけど、

勢い余って大幅に車道に飛び出してしまった。

 そこへ、車が来て、

急ブレーキの音が聞こえて……

一瞬で身体が宙に浮いた。

 そして、地面に叩きつけられた。

 誰かが、僕を抱きかかえて一緒に

倒れているのがわかって、

その場から起き上がると、

朝陽さんが頭から血を流して倒れていた。

 僕は驚いて……ただ、朝陽さんを見ている

だけだった。

 朝陽さんが、僕を見て、『無事でよかった』

 と言ってニコッと笑って……

指をさして、僕に言ったんだ。

 『彼女……美緒を待たせてるんだ、

早く行かなくちゃ……心配するから……』

 と言うと朝陽さんは意識を失った。

 

 朝日さんと僕は別々の救急車で同じ病院に

運ばれた。そして、警察が来て色んなことを

聞かれた。僕は泣きながら、自分が車道に

飛び出したことを話したんだ。

 美緒先生、ごめんなさい。僕があの時、

車道に飛び出なければ、朝陽さんは

死なずにすんだのに……」

 と想汰君は泣きながら下を向き拳を

握りしめた。

 泣いている想汰君の頭を撫でる朝陽は

美緒の顔を見ると、

 「想汰君……ずっと、苦しんでたんだ。

 だから、美緒にも想汰君のことも受け止めて

ほしいんだ……」

 朝陽は美緒に言った。

 想汰君から、朝陽の事故当時のことを

聞かされた美緒は、声を震わせながら……


 「想汰君が朝陽が助けた男の子だったなんて……

想汰君が車道に飛び出さなければ、

朝陽は死なずにすんだ。

 朝陽は……死なずに……」

 美緒も大粒の涙を流した。

 朝陽は美緒に近づくと彼女の頭も

優しく撫でながら、

 「美緒……泣くなよ……

美緒が泣いてると俺、辛くて」


 「朝陽……朝陽が突然目の前からいなくなって

ちゃんと、お別れも言えないままに、

いなくなって……だから私、今も朝陽が

突然現れるんじゃないかなって思って、

みんなの前では平気なふりして笑ってたけど

本当は、本当は、大声で泣きたくて……

泣きたくて……」声を震わす美緒。


 「しょうがないな……美緒、ほら おいで」

 と朝陽が両手を広げた。


美緒は広げられた朝陽の腕の中に飛び込むと

大声で泣いた。


 ひとしきり泣いた美緒は

朝陽の胸元から離れると、涙を拭い想汰君の

顔を見ると「想汰君……想汰君もつらかったね

さっきは、取り乱してごめんね」

 と言うと優しく微笑んだ。

 想汰君も美緒に「先生、ごめんなさい」

と呟いた。

 二人の姿を見た朝陽は、

 「じゃあ、今度は俺から話があるんだ」

 と言うと、

 「お~い、聡……出て来いよ」と言った。


 境内の隅に立つご神体の裏側より、

聡が三人の元に歩いて来た。


 「さてと……じゃあ、死んだはずの俺が

何故、突然現れたのか説明するよ」

 朝陽はそう三人の顔を見ながら微笑んだ。

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