第10話 想汰君?

 塾のバイトの時間に合わせて美緒は

家を出ると、駅前に向かって歩いて行く。


 空から照りつける太陽の陽射しに、

ハンカチで汗を拭う美緒。

 「暑い……」と呟いたその時

 「先生……」背後から彼女を呼ぶ声がした。

 美緒が振り向くと、そこには想汰君が

立っていた。

 「想汰君……こんにちは、あれ?

 今日は塾じゃないよね?」

 と美緒は想汰に聞いた。

 「はい、今日は塾に行く日じゃないよ」


 「じゃあ、どうしたの? この暑さの中」

 「先生を待ってたんだ……」

 「想汰君? 私に何か用事?」

 「僕……先生に伝えたいことがあるんだ。

 とても、大事なことで……」

 想汰君が美緒に言った。


 「大事なこと?」と呟く美緒。

 「うん……大事なこと……

だから、先生、今日の塾のバイトが

終ったら、この先にある神社の境内に

来てほしいんだ」


 「神社に来てほしいって……」

 困惑する美緒に想汰君が言った。

 「先生、塾が終る頃、夜の九時に……

神社の境内に来てね。僕待ってるから……

絶対に来てね……」と言うと想汰君は

来た道を走り去って行った。


 想汰君の突然の誘いに驚き、不思議に思う美緒は

首を傾げながら、塾のドアを開ける。

 塾の中では、美緒から指導を受ける生徒が

彼女を待っていた。

 美緒は、時折 時計を気にしながら授業を

進めていく。

 時間は過ぎてゆき、

 「はい。今日はこれでおしまいです。

 お疲れ様でした」と美緒が生徒に声をかけた。


 「美緒先生、さようなら」と生徒の数名が

塾のドアを開けて自宅に帰って行った。

 美緒も、資料等の整理を終えると塾長に

挨拶をして塾を出て行った。

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