第9話 聡! 起きろよ

 毎週の深夜放送のラジオ番組を

聴き終えた聡。

 時計は午前一時を指していた。


 大あくびをしながら、ベッドに

潜り込むと、すぐに寝息を立てた。


 暫くすると、聡の耳元で声が聞こえた。

 「おい! 聡、起きろよ……」


 眠気が勝っている聡はすぐさま、

 「起きろって……言われても、

俺は 今し方、寝たところなんだよ。

 だから、起きない……」と呟いた。


 「……」声が聞こえなくなったのを

気配で確認した聡はそのまま

寝がえりを打った。


 そして、何かの気配を感じパチっと

目を開けた。

 「う……」驚きと同じに言葉を失う聡。

 そして、数秒後にベッドの上に

飛び起きると言った。

 「朝陽……」

 聡の勉強机の前に置いてある椅子に

座っている朝陽の姿。

 聡は目を擦り、再度朝陽の姿を

確認する。


 「よ! 聡、久しぶり」

 と朝陽は変わらぬ口調で彼に話かけてきた。


 「え? これは夢だろ? にしてはリアルだな

朝陽がいるわけないもんな……

うん、夢だ……にしても、朝陽の姿が

はっきりと見えて、会話までできるなんて

俺、相当疲れてるのかな?」と一人呟く聡。


 「聡、おまえ何一人でブツブツ言ってんの?

 夢じゃね~よ。現実? 

 まぁ、色々あるけどさ」

 と朝陽が聡に話かける。

 「えっ? これ、夢じゃないの?」

 と聞き返す聡。

 「そう、夢じゃないよ」と笑顔で応える朝陽。


「朝陽~久しぶりだな。

 俺、おまえに会いたかったよ。

 おまえ、急に死んじゃったから……

色んな事、沢山話しておけばよかったって」

 聡は朝陽に抱きつき泣き出した。


 「はい、はい……」と聡の頭を撫でる朝陽。

 聡は、朝陽の顔を見ると、

 「ん? 朝陽……おまえ、

その死んじゃったじゃん……

ということはその、俗に言う幽霊じゃん、

なのに、なんで俺はおまえが見えてるし、

普通にお前に触れるんだ?」

 と不思議そうに言った。


 「聡……よく気がついたな」

 朝陽は優しく微笑んだ。

 「おまえ、まさか……生き返ったのか?」

 「ば~か、違うよ。それはな……」



 ダンダン、ダダダン、ダンダン……

爆音が部屋中に響く。

 手を伸ばし、スマホを取る聡。

 スマホの画面は午前に七時……

 「あ~、夢か……ったく、朝陽の野郎

本当に、この部屋にいたみたいだった」

 と呟いた。

 寝る前に綺麗に向きを変えたはずの

勉強机の前に置いてある椅子。


 椅子の座面の向きは、ベッドに寝ている

聡の方向を向いていた。

 まるで、誰かが座った後のように……。

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