4話

「それでは、新郎新婦のなれそめについて話させていただきます」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」


 司会進行の大臣の語りが始まりました。


「そもそものきっかけは、新婦の父親が虫嫌いで、娘の飼っていたペットの、ピーちゃんと名付けられたバッタ……」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」


「バッタじゃないわ。ピーちゃんはツチイナゴよ」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」

「はい。ピーちゃんと名付けられたツチイナゴを勝手に捨てようとしたことにありました。これに怒り心頭発した新婦は、……」

「ちくちくぴー、ちくちくぴー」


 ちなみにツチイナゴという種類のバッタは、長く生きるというわけではありませんが冬を越します。普通のバッタは初春に生まれて晩秋に死にますが、この種は初秋に生まれて晩春に死ぬのです。


「では、お二人による愛の誓いを……」


 というわけで、結婚式は無事に終わり、初夜のお床入りと相成ります。


「あの、姫」

「いやですわ陛下。姫ではなく、妃と呼んでくださいまし。それか名前で」

「これだけ一つ聞いておきたいのですが」

「なんでしょう?」

「余がもしも、ピーちゃんをその……そうだなあ、無事でない状態でお見せしていたとしたら、われわれは今頃どうなっていたのかな」

「そりゃあもちろん、この国は今頃地図から消えてなくなっておりましたわ」

「うん」

「でも、陛下はとっても心の優しいお方ですもの。心の優しいお方には、それに相応しい幸福な結末が用意されている。そういうものではなくて?」

「そうですね」


 王様は、一生この女には逆らわないようにしよう、と固く心に誓いつつ、ふしどに横になりました。


 めでたし、めでたし。


「ちくちくぴー、ちくちくぴー」

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虫の姫君 きょうじゅ @Fake_Proffesor

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