第41話



「ぅあっ」





澤部と蒼が手を抑えてうずくまる。


2人が持っていた銃は地面に落ち、硝煙を上げている。




「.………おい」





大地が目を見開いたまま、顔を上げられずに冷や汗を流す。

ガタガタと震えるその姿に、さっきの笑みはない。





「何やってんだよ」



足音の主──湊が呆れた表情でこちらを見ていた。

それをみて思わずホッとする。


「湊さん…」


「申し訳ありません。遅くなってしまって…」


「それはどうでもいい。なんでこんなことになった?」




風が吹く。

漆黒の髪が揺れる。



大地の手が緩んだ。

秋信が大地を押しのけて立ち上がる。



澤部とるみ、蒼も青い顔をしている。




2人が銃を撃つ瞬間、"邪魔だ"と声がした。

それに反応するように、2人が互いの手を撃った。




特に何か仕掛けがあったわけではない。

湊がどうやってそれをしているのか、俺たちはいまだにわかっていない。





「いえ…。何か掴めることがあればと思ったのですが…」




幸架も少し顔色が悪い。

湊の機嫌を損ねてはいけない。



必死で言葉を選ぶ。




「秋信、往焚。……大丈夫か?」




湊が幸架に手を差し出した。

そして、俺の足にチラッと視線を向けると、ガサゴソとポケットから止血帯を取り出して俺に渡す。

思わずバッと2人で顔を上げて見開く。




「……なんだよ」


「あ……いえ。ありがとう、ございます」


「さ、サンキュー」




幸架は湊や手を取って立ち上がった。

それを視界に入れながら止血帯を受け取って自分の足を縛った。




「往焚さん、歩けますか?」


「問題ねーよ。むしろ秋信の方が体きついんじゃねーの?」


「俺は大丈夫ですよ。

……湊さん、お手数おかけして申し訳ありません」


「別に手間とか思ってない。……帰るぞ」


「まっ、待って!」




蒼が手を抑えながら立ち上がる。

ガタガタと足を震わせながら、こちらに近づいて止まる。



懐に隠していたらしいもう一丁の拳銃をこちらに向けた。




「蒼!やめろ!」


「蒼!やめなさい!」



大地とるみの声が響く。

蒼は足も腕も震わせながら、それでもおろそうとしない。




「……蒼さん」



幸架が静かに声をかける。

冷たい声だった。



恐怖のせいなのか、蒼の瞳にはいっぱい涙がたまっている。




「行かせ、ないっ!絶対行かせない!」



カタカタと銃がなる。

それじゃあ撃てないだろうに。



湊がすたすたと蒼に向かって歩き出した。





「えっ、湊さん⁉︎ちょっ!」




湊は慌て始めた幸架を制す。

湊をじっと見つめる俺を見て、幸架も湊に視線を戻した。





あの人は、俺たちに見えていないものが見えている。

俺たちにわからないものを理解している。




俺と幸架、2人で束になっても1ミリも追いつか けない。


そんな人だ。





「………お前ら、生きてたんだな」





湊は蒼が持つ銃を掴み、銃口を自分の胸に押し当てた。


蒼はキッと湊を睨む。



それを見つめる大地とるみの顔はもはや蒼白だ。





それより、今、湊さん…。

お前、生きてたんだな、と言ったのか?


知り合い…?



何の関係で知り合ったのだろうか。






「……撃てよ」


「え…」


「撃つんだろ」


「え……ぁ…」





俺には、彼女たちの目的がわからない。

こんな風に囲まれて襲われたら、殺されるとしか思えない。



湊は一か八かになんてかけることはしない。

だから、殺されないとわかっていて行動している。




カシャン、と蒼の手から銃が落ちた。

そのままガクリと崩れ落ちる蒼を湊は片腕で支える。



やっぱり、湊は変わった。





何が彼を変えたのかはわからないが、


彼を変えたのはやはり、"彼女"なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

煙 Ⅱ 露輝 @odio_pueri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ