52 働きすぎ!
警察隊の隊長と話をし、ゲン捜索のために捜索班を動かしてもらう事ができた。
そして、ゲンが行方不明になって数日。
「よし。ここも配達終わりっと」
私はゲンを探すため、行方不明になった日からの報告書を読み込み、配達のペースも上げていた。
「風羽……前より根詰めすぎだけど、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫ー」
「それ、大丈夫じゃない人が言うセリフー! 働きすぎ! この世界でも過労で消滅する事あるんだから、ちゃんと休んでよ!」
「う……そうだね……」
さすがに疲労が顔に出ていたのか、側で一緒に行動している夢羽に怒られ、私のカバンを奪われてしまった。
手紙の入っているポケットをガードしているので、これ以上配達させない気のようだ。
「はい、帰る!」
「りょーかい……」
夢羽にクルマを呼んでもらい、それに乗り込んだ。
そしてクルマの中で仮眠をしていたら、いつの間にか星間郵便局に着いていた。
「んー! 休憩終わり! さて、報告書をー」
「はいストップ!」
「うぐ……」
局長室に向かおうとした私を夢羽が止める。
「報告書はあたしに任せて! 風羽はあっち!」
指した先には、私の部屋があるマンションがあった。
「え……でも、私の近くにしか出られないんじゃないの?」
「そうなんだけど、あたしもゲンみたいなロボットを遠隔操作できるのよ」
「そうなんだ……じゃあ、お願いするねー。なんか気を抜いたらどっと疲れたよ……」
「ほらー! 無理してたんじゃないの! ロボット出したら行くよ、ほら!」
夢羽がカバンの中を漁り始める。
おそらく、カバンを漁っているように見せかけて、中でロボットを作っているのだろう。
私がじっとカバンを見ていると、夢羽は視線を感じたのかカバンを自身の身体で隠した。
「もうすぐで見つけられるから、見ないで」
「はいはい」
私がそう言うと同時に、カバンからそこまで大きくないロボットが3体出てきた。
「小さくない?」
「この子達、飛ぶのよ」
ロボットの頭の上にあった触角のような物が突然回り、胴体が浮いて飛び始めた。
「すごい!」
「これだったら大きくなくてもいいわ。さあ、帰りましょ!」
ロボット達は勝手に局長室のある場所へと飛んで行った。
それを見送った夢羽は私の背中を押し、マンションへと向かった。
---
「んあ? ……私、部屋に着いたんだよね?」
マンションに着いた後の記憶がない。
玄関で倒れたのか、ベッドの上まで移動できたのか。
夢の世界の草原のど真ん中でそんな事を悩んでいたら、私の元に人影が近づいてきた。
「風羽、貴女やっぱり限界だったわよ! 玄関でいきなり倒れたから、ベッドまで引っ張ったんだから!」
「ははは……ごめんごめん」
「笑い事じゃないの! めっ!」
「あいた!」
夢羽にデコピンをされる。
「わかったよ……ごめんなさい」
「わかればよろしい。次やったら縛ってでも止めさせるからね」
「う……それはちょっと変な噂が立ちそう」
「そうならないように、気をつけて」
「わかった……」
「うんうん」
夢羽に両手を合わせて謝った後、周囲を見渡す。
「へえ……だいぶ綺麗になったね」
「うん。これも風羽が無茶したおかげよ。あと少しなんだから、ここで倒れてしまったら水の泡なんだからね」
「そうだね……気をつけなきゃ」
夢羽と話しながら歩いていると、病室のような扉が見えてきた。
前に来た時には階段の先にあったあの扉だ。
「ささ、入って」
「うん」
夢羽が開けてくれた扉をくぐる。
中は相変わらず、さっきと同じような草原の空間にベッドが1つぽつんと置かれている。
私はその隣に置かれていたイスに座る。
「それで、私はなぜここに?」
「見るのでしょ?」
「何を?」
「報告書」
「え?」
夢羽が空を指す。
そこにはなぜか大型スクリーンが映し出されていて、局長室でさっきのロボットが報告書をスキャンしている映像とその内容が流れていた。
「ちょっと待って。夢羽は休めって言ったよね」
「ふふふ、冗談よ。あれはちゃんと動いているかチェックするだけの映像よ。さすがの風羽も、あの速さの報告書は読めないよね」
たしかに、報告書が流れていく速さは、人が目で追える速さではない。
「あれって何やってるの?」
「紙をデータにしているのよ。その後に1日分の報告書を要約して、1枚にまとめる作業をしてもらうのよ」
「えー!? そんな事できるんだったら先に言ってよ……」
「風羽が楽しそうにしていたから。でも、疲労が見えた時はさすがに止めたわよ」
「そうだね……ありがと。それで、その作業ってどのくらいかかるの?」
「んー……あ、終わったみたいね」
「はやー……」
夢羽の手元に、1枚の書類が現れた。
「それって……」
「うん。報告書をまとめた要約書」
「…………」
夢羽が渡してきたので、それを受け取る。
受け取った要約書は3項目に綺麗にまとまっていて、上から『未配達報告』、『局長目撃情報』、『その他報告』と分かれていた。
「ん? 局長目撃情報!!」
私はその項目を凝視する。
夢羽も横から見る。
「えっと……サーキットの星で爆走する夢の主と競い合っている1台のクルマがいた。そのクルマには誰も乗っていなかった……こわ! 幽霊か!?」
「……幽霊ってあたし達以外がそうでしょ」
「あ、そうか。じゃあ、これって……」
「ゲンって機械だったら何でも変身するのよね?」
「そうだよね。このクルマ無人だったってことは、その可能性があるってことだよね!」
私は立ち上がり、扉の方へと行こうとするのを、夢羽に妨害された。
「貴女はもうちょっと休みなさい!」
「はーい……」
再びイスに座り、背もたれにもたれた。
「お嬢!」
「うわ! びっくりした!」
突然映像からタツロウの大声が響く。
「あれいない……あ! 局長! 戻ってたんですか! 皆心配していたんですよ! 3体に分身したんですね!」
カバンがソファに放り投げられ、1体のロボットがタツロウに鷲掴みにされる。
「あれどうするのよ……」
「……しょうがないわね」
夢羽が端末を取り出し、それで誰かに電話をかけ始めた。
「電話! 姉御! お嬢がいないが、局長が戻ったぜ!」
「それ、あたしが作ったロボットよ。あとそっちの様子、映像で見えてるわよ」
「なんだと! 局長じゃない!」
タツロウはロボットから手を放す。
「うん、放してくれてありがと。あと風羽なんだけど、今自室で休んでいる所よ」
「やっと休んでくれたか! 軍部で話題になってたんだよ。医療部に運んでもらおうかってな」
そこまで深刻だったの!?
「あたしが説得してようやくかな」
「さすが姉御!」
タツロウは、はははと笑っている。
端から見ると、1人で高笑いしている人に見えてくる。
「あ、タツロー。風羽からの伝言」
「おう、なんだ!」
笑っていたタツロウがピタリと止まる。
「次、この星に行ってくる。だそうよ」
さっきのサーキットの星の情報が載っていると思われる書類が、ロボットからタツロウの手に渡る。
タツロウはその書類に目を通す。
「サーキットの星だな! 俺も行くぜ!」
「別行動でいいわよ」
「いや俺も行くぜ!」
あー、あれはぜひ行きたいという顔だ。
私は夢羽に頷く。
「風羽から許可貰ったわ」
「お嬢近くにいるのか!? 変わって」
「今寝てるから話せないわよ」
「でも今許可を貰ったって」
「寝てるから喋れないのよ」
「何か事情があるみたいだし、そういう事にしておくぜ」
配慮したのか、タツロウはソファのカバンを担いだ。
「じゃ、軍部に報告してくるぜ! お嬢がようやく休んだってな」
「うん、そうしてあげて」
やめて恥ずかしい。
タツロウはそう言い、局長室を去った。
「ほら、心配されてるじゃん」
「面目ない……」
「過労はこれっきりにしなさいよ」
「はーい」
---
目が覚め、風呂や食事などやる事を全て済ませ、局員の制服を着た私は、ターミナルの前に立っている。
「お嬢! 体調はどうだ?」
「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね」
「ははは。元に戻って良かったぜ。それに、局長代理の代理ができたようで良かったじゃねーか」
「代理の代理?」
もしかしてロボットの事かな?
「あーあれね。夢羽が作ってくれたよ」
「さすがお嬢の姉御だ」
「うん……それで、話変わるけど、行きたいんだよね?」
私はサーキットの星の主宛の手紙を取り出す。
主が目の前にいるのに配達できない前代未聞の星のようで、4通の手紙が手元にある。
「根性ねーな。どーんと、ぶつかっていけばいいのによ」
---
「あー、前言撤回だ。あれにどーんってぶつかったら、俺達が消滅するわ」
「うん、あれは追いつく以外無理だね」
「追いつけるの? あれに」
「わ、私あんなに速く走れません!」
かなり複雑でやたらと長いサーキットで、爆走している2台のクルマがいた。
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夢現新星譚 富南 @TominamiSora
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