12夜目 チョコレートと恋心

「はい、チョコレート」

 リボンに巻かれたきれいな箱が1つ


「えぇ、私にですか?」


 彼は笑った。月の光のような笑いだった。


「だって9月9日でしょ?そりゃチョコがないとダメだよ」

「ああ、そうなんですね」

 もう、何を言っても無駄だから、話を聞くことにした。


「恋って、チョコレートに似ていると思う」


 彼は箱を開けてひと粒つまみ、舌の上で溶かすように言った。

 私へのチョコなのに!?


「口に入れた瞬間に甘くて、ふわっと広がって、気づくともう消えてる。

 でも、不思議と後味だけは長く残る。どこかに微かな苦さを残してね」


 私は彼を見た。

 いつも余裕たっぷりな彼が、今夜はどこか、ほどけた表情をしている。


「その苦さって、何の味なんでしょう」


 彼は答えなかった。代わりに、もうひと粒、チョコを口に入れる。


「たぶん、伝えきれなかった想いや、言えなかった言葉。

 叶わなかった“もしも”が、溶け残ってるんだと思う」


 私は小さなチョコをそっと指でつまんだ。

 それは軽くて、すぐに消えてしまいそうだった。


「じゃあ、恋って、甘さよりも残る苦さのほうが本当なのかもしれませんね」

「そうかもね。でも、甘さがあるから、また恋したくなるんだよ」


 彼は最後のひとかけらを口に運んだ。

 私はそれを見届けてから、彼に何かあったようで少し心配。

 満月を眺めているからの目線は、雨が降ったように潤んで。

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異世界ファミレスー哲学と食べ物だけで「世界」は語れるー 聖心さくら @5503

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