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ポスト・サピエンス。通称
いまアーカイブを眺めてんだけど、当時の盛り上がりったら凄いね。ジェシカ・イケマツって人のスピーチ、今でもグッとくるものがあるよ。
「これまでクロス・リアリティの技術は、主に視覚情報を騙すことに重きを置き発展してきましたが、このたび我が社は五感すべてに訴えかけるXR技術の開発に成功しました」
ああ、補足が足りないね。ジェシカはラズロがゲーム会社だった頃のCEOさ。人造人間だなんてブッ飛んだものを発明する気なんてサラサラなかった時代の、ね。
「視覚・嗅覚・触覚……技術的には既に可能であった三つの感覚機能へのアプローチに加え、味覚ならびに痛覚をも利用した、まるで仮想空間に『自らの肉体』を持ち込むような体験を提供する準備が整ったのです」
二十一世紀中期の平面動画だから、画質が粗くて申し訳ない。続けるよ。
「痛覚を利用するといっても、人体への危険はご心配に及びません。なぜならば、あなた方が操縦する『自らの肉体』は外付けのハードウェアであるためです。我々は『第二の肉体』を現実世界で獲得し、決して己が生命を危険に晒すことなく、時には異世界に、時には宇宙に、時には何千年も過去の世界でのレクリエーションに繰りだすことが可能になったわけです。この技術はタイムマシンや異世界転送機、あるいは魔法と呼んでも差し支えないかもしれません」
凄いだろ。魔法、だってよ。たかがゲームでさ。
いまはもっと魔法みてーな代物に出来上がってんのに。
一時停止するよ。これ、この『第二の肉体』と呼ばれているのが、私たちの身体の基礎だね。元々は人間が操縦するためのハードウェアだったのさ。でも、どっかの夢想家が思いついちまったんだな。自律式AIを搭載すれば、人類に代わる新たな生命体を産み出せるんじゃないか、って。
お分かり? それが私ってわけ。ここまでで質問は?
ないね。なら、先に進めるよ。……なんだい? 歴史はもういい、分かってるって? 分かった、分かったってば。次に行くよ。
二一四五年。日本国は長野都に、P.S.Laszlo管轄の学園都市、通称「ダルシー地区」が建設された。ララドは私と同じく、ダルシー地区「学校」のP.S.実験機だったわけさ。二十三期生。所属は違って、私が
あ、ちなみに模倣体って言っても、人間の身体機能を再現するんじゃねーぜ。真似たところで機体は金属製だしな。外見上、それなりに人間に寄せてはいるが、二世紀前の科学技術程度でP.S.か人間かの看破は可能だ。
じゃあ、なにを模倣することを目的とするか? 簡単な話だ。成分解析が不可能に近く、そもそも視認できず、なのに人間どもが実在を信じて疑わないもの。なぞなぞじゃねーぜ。答えを言おうか、心だよ。
そう、芸術だ。古来より、心の実在証明は芸術活動によって行われてきたろ。殊、人間の感情を
けどな、時代は変わった。技術は進歩した。言っちまえばよ、最近のP.S.はほとんど「創作物」と区別がつかない「生成物」を産み出せるようになってきたわけだ。すげえだろ。
P.S.と人間を区別するものは「心」の有無だった。その前提の上に「模倣体」という呼称は誕生した。すなわち「模倣体」とは、完璧に近い形で人間感情の模倣に成功した機体──生成物に「心」を宿すことができる機械型芸術家の総称さ。
ここでようやく私たち「鑑定士」の役割も理解できてきただろ。そうだよ。芸術品に真正の「心」が宿るか否かを見極め、その作り手が人かあるいはP.S.かを識別する。それが私たち、「鑑定士」なんだ。
一方で「模倣体」、もう一方で「鑑定士」。両極の技術は同時並行的に開発・実験が進められ、相互作用しあって今日まで発展してきた、ってわけさ。どうだい? 歴史の復習になっ──あ?
ちっ、うっさいな。分かってるっての。君が聞きたいのはそんな初歩的な座学じゃねえってことぐらい。けど、君たちがどれほどのデータをその旧式の脳にストックしているかなんて知らないんだからさ、懇切丁寧に説明してやってるんじゃんか。
ほんと、せっかちだねぇ。そんなに時間がないのかい?
しょうがない。すでに無機物の腹だってくくってんだ。本題に入ってやるよ。確認するが、聞きたいのは、どうして私とララドがダルシー地区から脱走したか、その理由だよな?
「いいよ、語ろう。まあ、君が納得するかは知らねえ。関係ねえ。期待に沿えなくても肩を落とすなよ」そうして、私は語り始める。「では、いっちょ供述といこうか」
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