魔女の手紙
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妹へ
お元気ですか?嫁いだ先では、さぞかし大変かもしれないけれど
無理をせず、過ごしてくれたら何よりです。
姉より
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絵本の一番最後に挟んであるこの手紙をいつも読んでいた。
「風鈴のおばあちゃん?」
ヘルパーの尾畑さんが、私の顔を覗き込んでいた。
「なあに?」
「今日もいいお天気ですよ〜」
そう言って、ヘルパーの尾畑さんが部屋のカーテンを開けてくれる。
「あら、本当〜」
窓から差し込む日光に目を細めた。
昨日までの山火事騒動がまるで嘘だったかのように、町は静かになった。
「菜々先生と連絡が取れなくて、困っているんですよね〜」
ベッドのシーツを替えながら、ヘルパーの尾畑さんが言った。
私の記憶が正常であるのなら、菜々先生はもういないはずだ。
彼女は、私の演技を見破る人間だったから、いなくなってくれたのは助かるのだけれど。
「尾畑さん、私テレビが見たいわ」
「あ〜はい、今つけますね」
そう言って、尾畑さんはテレビをつける。
丁度よく、ワイドショーでこの町の山火事を取り上げている。
「消防の他に自衛隊もが消化にあたり、完全消化に二日を要した山火事ですが、お亡くなりになった方々の情報が今入ってきました・・・」
「え?」
テレビのキャスターが、菜々先生の名前を読み上げた瞬間、尾畑さんは持っていたシーツを床に落とした。
「そんな!嘘でしょ?」
尾畑さんはかなり慌てているようだった。
私はゆっくり瞳を閉じた。
そして、いつも通り本を開く。
「風鈴のおばあちゃん?!テレビ見ました?!」
尾畑さんが私に問いかける。
「・・・魔女が窯に入ると、グレーテルはかんぬきを掛けて魔女を閉じ込めました」
「・・・」
私の言葉に、尾畑さんは一気に落ち着いたようだった。
尾畑さんはいつもこうすると、静かになる。
「私、病院に電話してきますね」
尾畑さんはそう言って、足早に部屋を出ていく。
私は、視線をテレビに戻した。
「なお、行方が分からなくなっているのは、大原光さん30歳で今回の山火事に何らかの形で関わっているとして、公開捜査が行われています」
テレビの画面に映し出された写真は、私が若かった頃に散々見てきた顔だった。
やはり、幽霊ではなかったようだ。
追いかけて行ったあの子は、どうなってしまっただろうか。
「続いて、山中から大量の人骨が発見された・・・」
テレビに映る写真に私は、目を閉じた。
この子を見た時、血は争えないのだと感じた。
どうやら、私のその感覚は間違ってはいなかったらしい。
顔は、そこまで似てはいなかったけれど、雰囲気や輪郭は併せ持っていた。
貴女の母は、私より姉を好んだ。きっと、姉が生きていたら貴女も姉を選ぶことでしょう。
明美を産んだのは、私だというのに。
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姉さんへ
いかがお過ごしですか?明美はまたそちらに行っていますか?
迷惑をかけていなければいいのですが。
妹より
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子供が好きだった。
もちろん、食べるためではない。
ただ、その存在が好きだった。
その存在が、ただただ尊いものだったのだ。
自分の夫がどんなに穢れた人間でも、子供に罪はないと思った。
だからこそ、許せた。
いや?赦しなどなかったのかもしれない。
ただ、どんな子でも取り上げてきた。そのことに悔いはない。
誠は、私よりもあの男に似てしまったようだ。
慶次と美代子は私に似たのだと、信じたい。
ただ、子供達には自由に生きて欲しかった。
金丸の、この尾畑の血など関係のないところまで、どうか逃げて行って欲しい。
お気に入りのロッキングチェアをゆっくりと揺らす。
妹からの手紙は、いつも明美のことだ。
娘なのだから、当然だろう。
明美も、こんな薄汚れた場所で勉強などしなくてもいいのに。
床を見ると、勉強道具を床に散らばせて勉強をしている、当の本人がいる。
真剣な顔をして勉強しているようだ。
この子が、この町の呪縛を終わらせてくれるのだろうか。
それとも私のように産婆をしてくれるだろうか。
私の視線に気がついたらしく、顔を上げ
「何?」
と、聞いてきた。
「別に。何も」
と、言うと再び教科書に向かっている。
この何でもない時間を幸せと呼ぶのだろうか。
夕暮れどきの魔女たちは ふじ笑 @fujiwara___
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