第1話
「……さっきはごめん」
プリンの食べ殻を横目に見つつ、君はぽつりと独り言ちるように謝った
僕は分かっていてもそれだけじゃぁ物足りなくて、「ん?」とわざと聞き返す
すると面白いくらい君はむくれるから、それが可愛いと密やかに笑う
が、その笑みが少し漏れていたようだ
君はそれを目ざとく見つけて僕を睨む
身長差故に少し上目遣いな、ほっぺを膨らましたまま睨む君は、怒っていると全身で表現しているのだが、僕にはそれが可愛く思えて、とても愛おしくてたまらない
君はそれを分かっているのだろうか?
笑みがばれた僕は、隠さずにクスクス笑う
僕が笑うと君の頬はさらに膨れ、まるでハムスターが頬袋に食べ物をいっぱいに詰め込んでいるみたいだった
「…なんだよ!
人がせっかく謝ってるのに!!」
ぷんぷんという効果音が似合いそうな様子で、君が怒る
「ふふふ、いいよ
僕のプリン、勝手に食べたことは許してあげる
だから、さ?
そのお詫びに君からちゅーしてよ」
「は、はぁあ!!?」
僕の提案に君は柔らかそうな頬を朱に染めて、面白いくらいに声を裏返らせる
そんな君が可愛くて、僕は「ねぇ、良いでしょ?」と聞きながら君の肩に腕を乗せ、逃れられないようにホールドする
そして、君からキスもしやすいように顔の高さが同じになるだけかがむと、顔が一気に近くなる
顔が近づくに比例して、君の顔が真っ赤なリンゴのように赤く熟れあがっていく
ついでに少し瞳も潤みだすから、僕からキスをおねだりしているのに、つい可愛い君を襲ってしまいそうになる
その劣情を抑えるために自分の唇を舐め濡らして気を紛らわせると、君の喉がコクンと上下した
…もう一押しかな?
「あ~ぁ、僕プリン楽しみにしてたんだけどなぁ…
誰かさんが食べちゃったもんなぁ…
……だからさ?
君がちゅーして慰めてくれない?」
もう少しかがんで、今度は僕が上目遣いで小首をかしげながらそう言うと、君は息をのんだ
可愛い君につい、口元が緩まりそうになるのを我慢しながら君をじっと見つめる
見つめられたままの君は居心地悪そうに、視線をうろうろと彷徨わすが、互いの息が触れ合うほど接近した今、君の瞳は僕を映すほかない
それでも往生際悪く、逃げ腰になる君は少しずつ後退りするものだから、僕も同じだけ前進して、最後には壁に君の背を縫い付ける
そろそろかがんでるのもきつくなってきたし、せっかく壁ドンの体制になってしまったのだから、僕はかがむのをやめて君に覆いかぶさるように立つ
このまま襲ってしまうのもありかなと思いもするが、やはり意地っ張りな君からのキスも、たまには欲しい
どうやって追い詰めてやろうかと思案し始めたころ、君はやっと観念したようだった
「~~~っ、わかったよ!
キス、すればいいんだろ!?
目ぇ閉じろ!!」
わざとぶっきらぼうに言う君が可愛くて、笑いをかみ殺しながら僕は言われた通り目を閉じる
もちろん、身長差を考慮してかがむのも忘れない
でも、せっかく君からキスをしてくれるのに、滅多にないこのチャンスを見逃すのはもったいない
しっかり目を閉じたふりして、僕は薄目を開ける
だが、ここでは君の方が一枚上手だったようだ
キスをする前に、君は僕の目をその可愛い手で隠してしまった
その後ややあって、やっと僕の唇にしっとり柔らかい君の唇が重なった
意地っ張りな君の、ぶっきらぼうで押し付けるだけのキスは、重なった瞬間離れていってしまう
ほんの一瞬の可愛いキスに君らしいと思いながら、すぐに離れて行ってしまう君に少し寂しい気もする
かといって、このまま調子に乗って襲ってしまえばきっと君は数日僕と口をきいてくれなくなるのだろうから、ここは我慢する
そっと離された君の手に、僕の視界が戻ってくる
予想していた通り、君は真っ赤に塗りつぶされた顔を俯けて、僕とは目も合わそうとしない
キスだけでいっぱいいっぱいの君に、つい笑みがこぼれる
可愛い君をボクの腕の中に閉じ込めて、僕は君に囁く
「ありがとう、大好きだよ」と…
プリンのお詫び 葉月 @hazuki_0123
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