レポート7

 あの夫婦はこちらの依頼どおりに動いてくれた。私がどうしてやたらと詳しいのか訝しんでいるようではあったけれど、バレたところで痛くないしそもそも探る余裕もないだろう。彼らにはまだ次の仕事があるのだから。

 それにしても、よくもまああれを使ってけろりとしていられるなあ。私はどうしても耐えられない。組み合わせたときなんてもう吐き気を催してしまう。

 穴の中の混乱はさらに深まっている。単純な図式に飛びつく人は多いはずだ。同時に数があると氾濫も起きやすい。今まで以上に進行を急ぐ必要がある。

 リーダーは最初の接触の様子からして特に問題はない。興味のない愚痴に何回か付き合った甲斐があった。天才との埋められない差なんて、私たちからすれば悩めるだけ贅沢なことだった。

 優秀な姉との確執、認められない努力、自分なりの処世術。どこかで聞いた話ばかりだった。あの子の場合は年齢が近いことがプラスに作用したけれど、こちらは逆にリーダーの年齢が高いことが有効に働く。きっと。足りなかったものを与えられるだけの経験を積んできているはずだ。

 それはそれとして。

 以前に、前回の研究があったことを記録した。そのことについてもう少し触れておくことにしよう。

 この穴の調査は今回が二回目になる。最初のものは途中で報告が途絶、優先順位の関係で何があったのかの確認すらも行われなかった。だから私たちがここへやって来たことでようやく過去の事態の一端を把握することができた。

 結論から言うと、研究チームの人員同士で争いあった可能性が高かった。

 施設の中の一部屋に人間の白骨と弾痕があったから。

 医学や生物学に詳しいメンバーもいたけれど、白骨からは死因も死亡時期も割り出すことはできなかった。ただ、壁の複数箇所に銃弾サイズの穴があって白骨の場所が固まっていたことから、複数人を銃殺してその遺体を部屋の端に積み上げた、そんなシナリオが浮かんだというわけ。

 もっとひどい臭いを想像していたのだけれど自然というのは偉大なもので人工物すら長い月日の間に蹂躙して、中にあった遺体たちの肉体も消し去ってしまっていた。だからなのかどうも凄惨な印象はなくて、歴史資料を確認する感覚に近いものを私は抱いている。ああ、そんなことがあったのかみたいな。

 私はもう答え合わせを終えていた。今回の研究チームの立てた想像は正しい。前回のチームは仲間割れを起こした。その結果多くが死を迎えたわけだ。つまり報告はしなかったのではなく、できなかったということになる。なにしろ研究資料はどれもこれも書きかけで、これからもっと情報を集めようという段階だったそうだから。当然進める人員が誰もいなくなったのだから、研究が進むはずもなかった。

 リーダーの部屋からも夫婦の部屋からも、絶えず物音が聞こえる。おそらくこのあとの準備に勤しんでいる。誰も私に何も伝えようとしないのだから、やっぱりここの連中はそこまで好きになれない。想像したとおりに動いてくれるのはありがたいけれど。

 もうすぐここはもぬけの殻になる。考え出すと落ち着かない気持ちが怒涛のように押し寄せてくる。

 スポーツをやったことがないから分からないけれど、大きな大会の前日が近いのかもしれない。これだとちょっと平和的すぎるか。まあいいや。イメージだもの。

 パパもこんな気分で運命のときを待ちわびていたのかな。

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