レポート5

 想定外に混乱して、そちらに記録を使ってしまった。冷静になってみて、あんなの録ってどうするのって思ったけど、どうも落ち着かなかったからしょうがない。消すのもなんか嘘つくみたいで嫌だし。落ち着いたらもう一度消すかどうかを考えよう。

 記録を確認してみたら、蕃神のことを収めるつもりだったみたい。すっかり忘れてしまっていた。予定どおり触れていこう。まだ落ち着ききっていないのが自分でも分かるからこそ、慣れたことをこれまでどおりにやるのが一番いい。きっと。

 おさらい。蕃神は穴の中で語り継がれている存在で、穴を訪れた最初で最後の外の者たち。残っていた設備を確認したかぎりでも、それは間違いない。

 これは前の調査隊の記録だから又聞きみたいなものだけど、農業についてのメモ、穴の中へどう田のための水を引くかを検討した地図、開墾のための道具類。穴の外から持ち込んだと推察できるものがたくさん残っていた。村の中にも彼らが持ち込んだか手づから作ったものが多少残っているようで、少数の農具や農水の整備の一部分に鉄が使われていた。

 どうやって穴にたどり着いたのかまでははっきり分からないけれど、探検家かあるいは国を追われた犯罪者たちだったのでは、という意見が多い。のちに起こったことを考えると、後者だったんじゃないかと私個人は思ってる。確かめる術があるのかないのかも調べてみていないけどね。

 なんにせよ、彼らはこの穴を発見し先住民たちと邂逅した。その当時の村人たちは食料も家もろくなものじゃなかったみたい。だからこそ、技術を持ち込んだ存在たちのことを神と呼んだのも分からなくもなかった。

 蕃神たちは精力的に村の発展へ取り組んだ。今の村の様子からして、基礎部分はかなり必死にやったみたい。彼らは足掛けではなくてここに定住するつもりだった。私にはそう思えて仕方ない。だからこそ村に元いた住人たちも本気になったし、今の安定した状態を手にすることができた。おそらく一年や二年より、もっと長いスパンでの計画があったはずだった。

 ここまでは順調だった。新しい風が滞っていた空気をかき混ぜて刷新した。どちらも全力で取り組んだからこそ今の結果があった。けれど、それはそれとして負の遺産もあった。新しい風もそのうち古くなる。停滞し、だんだんと悪くなっていく。外からきた連中は、それこそ神話の神のように振る舞い始める。

 と、今日はここまで。やっぱり、あの人には刺激が強すぎたのかもしれない。

 いや、むしろ逆で、あれにとって刺激が強かったのかな。

 相性は抜群のはずだった。事実、まったく隠すことでできておらず、ぼんやりと昇降スイッチを押していた。

 あとは何度も引き合わせるだけで事足りるはずだった。彼らは互いの刺激を運命だと判断する。

 私の思ったとおりに事態は推移してくれていた。

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