レポート2

 この狭くて息苦しい生活を始めてから、気がつけば一年が経っていた。早い。制限の多い生活にもすっかり慣れてしまっている。もし戦争でも起きて地下シェルターへ引きこもり続けなければいけなくなったら、こんな感じなのかも。刺激は少ないけれど私にとってはたいした問題じゃない。

 これまではとてもぼんやりとした時間が過ぎていた。亀が歩いていて、しかも時折後ろを振り返って、なんだったら後退して、通った道に何かなかったか確認していく、それくらい遅々とした日々だった。

 たった一つの事象でそれが激変した。まさに爆発だった。

 四人とも色めき立っているのが息遣いから伝わってきた。正直、少し怖いくらいだった。これまでも証言は十分にあった。けれど、証言を越えたものが現れたとなると、どうしても興奮を抑えられないみたい。

 促されて私も少しだけ調べてみた。なかなかどうして興味深かった。調べる価値がおおいにあることは彼らに同調してあげてもいい。

 彼らはどうするべきか、雁首を揃えて長い会議をしていた。同じ話題を行ったり来たり。私より立派な肩書を持っている人たちなのに、建設的なんて言葉からはほど遠かった。各々が調べたいこと、仮説、反論、好き放題にしゃべっていた。もちろん紛糾。

 みんな私の存在は忘れ去っていて、まるで話しかけてくれなかった。こういう扱いには慣れているから、今更文句は言わない。自重して外に出さないだけで、苛立ちはしているんだけど。

 しゃべらないで済むことにはメリットもあった。どうしても話すと余計なことまで口にしてしまう可能性がある。連中は頭こそいいけど他人の機微には疎い。なるべく私に注意を向けてこなければこないほど、リスクは減る。そのときの不快を我慢することで得られるものはとても大きかった。

 彼らは気がついていない。証言も聞いていない。知っているのは私だけだ。加えて彼らの人となりも一年経てば嫌でも分かる。材料は手元に揃っているわけ。

 まあゆっくり煮詰めていくとしましょう。考える時間だけは豊富にあるし。相談内容もまとめておこう。

 ここからが勝負だ。

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