消えたHG00167便~再生の星のアウレール外伝

ぽとりひょん

短編

 フレイムランドは、恒星フレイム2の第4惑星ランド2と第3惑星のランド3に居住惑星を持つ、異世界の人類国家である。ランド2のゲートタウンから始まった植民は、地球から大量の移民を受け入れることによって、爆発的に発展していく。次にランド3も開発が進み惑星間は定期宇宙便が国家によって運用され、人々は容易に宇宙の旅をできるようになる。

 定期宇宙便は本数が増え続けて膨大な利益を生むようになり、事業は国営から民営化されることになりハイナグレード社が設立される。

 異世界ではフレイムランドは統一国家であるため、大きな軍を持つ必要が無くなり軍縮が行われて近衛騎士団と宇宙軍の3隻の宇宙戦闘艦を持つだけになる。

 当然、搭載機の人型兵器フレームシリーズの数も限られてくる。しかし、近衛騎士団のパイロットは騎士と呼ばれ強力な力をいまだに誇っている。

 この様な状況の中で、ほむら王は国家が発展を続けているため、将来に備えて他の惑星の調査も不可欠であると考える。

 恒星フレイム2は、第4惑星ランド2と第3惑星のランド3の他に第1惑星プラント1、第2惑星プラント2、第5惑星ランド4、第6惑星プラント3、第7惑星プラント4、第8惑星プラント5を有している。

 デニス反乱事件をきっかけに、地球で傭兵団をしていたハンティング・ウルブズは、ほむら王にスカウトされて、惑星探査の依頼をひきうけることになる。

 ハンティング・ウルブズのブルーノ・ハルトマン団長は、参謀のクルト・バール、ブリュノ・マルローと共に軍の幹部と検討を重ねて第5惑星ランド4を調査することにする。

 ランド4は人が住める環境ではないが大気があり、テラフォーミングできる可能性があり、資源の採掘も他の惑星と比べて容易であると考えられた。

 こうして、ハンティング・ウルブズは、宇宙戦闘艦セレーネ2でランド4の調査を開始した。

 ハイナグレード社では定期宇宙便以外の事業を模索するため、宇宙豪華客船トリトンを建造して宇宙観光ツーリング計画を立ち上げる。

 まずはトリトンのお披露目のため、ランド2のゲートタウン宇宙港から出発してランド3を周回するコースを航行して、大好評を得て成功する。

 こうして、ハイナグレード社は、ランド2発ランド4周回プランを発表する。発表後は騒ぎになる。ランド2、ランド3以外の惑星へ行く民間船は初めてだったのである。

 搭乗券は予約が殺到したため抽選販売となる。それでも1000人分の搭乗券に20倍の応募が殺到した。トリトンは全長600メートルあり、通常なら1万人は乗れるはずである。

 しかし、船内は巨大な通路に贅を凝らした施設を満載しているため、乗客を1000人に絞り込んでいる。

 宇宙港の管制室は民間と軍が共同で使用している。もちろん、ハンティング・ウルブズもここを使わせてもらっている。今はブルーノの妻のコリンナ・ハルトマンが席に着いている。

 管制室の勤務には彼女の他、クルトの妻アメリー・バール、ヨハン・アプトたち12人の団員が交代で勤務している。

 「こちら管制、セレーネ2応答願う。」「こちらブルーノ、愛しているよ。」

 「冗談はやめて、まじめにやっているのよ。」「俺だって真面目さ。惑星表面の写真ばかり見ているから。君に会いたくなったよ。」

 「2週間の辛抱でしょ。」「ああ、こちらは異常なし。」「了解。」

コリンナはため息をつく。会いたいのは自分だって同じである。隣の席の管制官が言う。

 「愛されてますね。」「私も愛してますわ。」

 「ブルーノ団長がうらやましい。」「あなたも早く彼女を見つけなさい。」

 「相手がねいないもんで、結婚とか言うのもやってみたいなー」

フレイムランドでは表立った宗教活動が禁止されているため、結婚式は無く、結婚の概念も存在しなかった。人々は自由に恋をして、子供が出来ればどちらかが親になる。

 そして子供は地域で面倒を見られその地域にいる先生役に教育され自分の生きる道を決めていくことになる。


 トリトンの搭乗券の抽選が行われて、人々は一喜一憂した。トリトンの搭乗券は高額だが、フレイムランドの人々は皆開拓民のようなものでフロンティア精神を刺激されたのだ。

 ブルーノたちを乗せたセレーネ2がゲートタウン宇宙港へ帰ってくる。セレーネ2は整備用のドックに入る。そのドックの2つ隣に大型船が入っている。ブルーノが言う。

 「かなり大きいなそれにしゃれているな客船か。」「宇宙豪華客船トリトンです。もうすぐランド4の周回クルーズが予定されています。」

 「そうか、こんな船に乗れるような身分になりたいな。」「ブルーノの給料なら難しくないでしょ。」

 「給料は使う当てがないから放ってあるんだ。」「コリンナさんが嘆いていましたよ。」

 「何か困らせているか。」「休日もハンティング・ウルブズの制服を着ているでしょ。」

 「着慣れているからな。」「そう言う所です。ちゃんとすればいい男になるそうですよ。」

 「何を着ればいいかわからんからコリンナに選んでもらうか。」「お金の管理もコリンナさんに頼んだらどうですか。」

 「そうするよ。クルトはアメリーとうまくやっているか。」「もちろんです。ちゃんと生活設計を立ててます。」

 「2人して嫁さんの話ですか。」「ブリュノは彼女は作らないのか。」

 「ええ、昔、女の子に追いかけられまして、ちょっと苦手なんです。」「そうだなおとなしい子がいたら紹介するよ。」

ブリュノは、パリで傭兵団の団長をしている時、若い女性たちがいつもついて回っていた。それがエスカレートしてベットの中で待ち伏せるつわものまで出たのだ。

 もてまくっていたが彼にとって思い出したくないものだった。

 ブルーノたちは、ランド4の地表面の映像を学者も交えて検証する。これで次はボーリング調査に入るため調査地点を絞るのだ。

 検証結果はブルーノがほむら王たち幹部会で報告する。ブルーノは報告で、鋭い質問をしてくる国土管理局局長のグリゴリー・プラトノーフが少し苦手だった。

 報告が終わると次の調査の出航準備に入る。すでに必要な物資は運び込んである。ブルーノは管制に言う。

 「セレーネ2、発進する。許可を願う。」「発進待て。」

 「ヨハン何かあったか。」「トリトンの乗客搭乗が遅れている少し待て。」

 「例の宇宙豪華客船か。」「そうだ、HG00167便の発進が優先だ。」

宇宙豪華客船トリトンHG00167便は30分遅れて発進する。セレーネ2はその後、発進する。

 セレーネ2は、途中でHG00167便を追い越してランド4へ向かう。セレーネ2はベネディット級の戦闘艦でフレイムランドの宇宙船で最速を誇っている。


 セレーネ2はランド4に到着してボーリング調査の準備を始める。その頃、管制室では管制官がコールを続けている。

 「HG00167便、応答してしてください。HG00167便、応答を・・・」

隣の席にいたアメリーが聞く。

 「HG00167便の応答がないのですか。」「先ほどから呼んでいるのですが・・・定時報告の時間なのに。」

 「分かりました。セレーネ2に探してもらいます。」「そうですが宇宙は広いのですよ。

 「分かっています。最悪の状況を考えて動いた方が良いです。」「分かりました。軍に通報します。」

アメリーはすぐにセレーネ2に連絡をする。

 「管制からセレーネ2、緊急連絡です。」「こちら、セレーネ2何があった。」

 「HG00167便の応答がありません。ランド4に向かっていましたので探してください。」「了解。ブルーノに報告する。」

オペレータはブルーノたちを艦内放送で呼ぶ。

 「ブルーノ、艦橋に来てくれ。HG00167便が消息不明だ。」

ブルーノ、クルト、ブリュノは作業を中断して環境へ向かう。

 「見つかると思うか。」「広いから難しいでしょう。」

 「とりあえず、乗員について調べるか。」「ハイジャックですか。それなら要求がありそうですが・・・」

 「私たちはHG00167便のコースを予想する必要があります。」

ブリュノが言う。

 「コースが判れば見つけられるか。」

ブルーノ、クルト、ブリュノは艦橋に到着するとクルトがアメリーに指示を出す。

 「アメリー、全員招集して乗員全員を調査してくれ、それから搭乗チェックの録画を確認して本人が乗っているのか確認するんだ。」「はい。」

 「それから要求などの情報は全てこちらによこしてくれ。」「分かりました。」

アメリーは地上勤務の団員全てに招集をかけると隣の管制官に身分証を見せて言う。

 「国王の権限で乗員名簿を打ち出してください。乗客、乗員全てです。」

30分で団員全てが集合する。すでに2人の団員が乗員名簿から犯罪歴などを調査している。

 ハンティング・ウルブズには国王と同じ権限が認められているため、普通は知ることが出来ない情報に触れることが出来る。

 コリンナと5人の団員が乗員の資料をもって搭乗口の管理センターへ行く。管理センターにはHG00167便の乗客と乗員が身分の認証を受けて藤樹口を通る映像が残されている。

 映像と資料を確認して本人が登場したのかを確認するのだ。ヨハンたち残りの団員は連絡役と待機して出番を待つ。

 セレーネ2に乗客と乗員のデータが送られてくる。ブルーノはブリュノに言う。

 「事故や遭難は薄いと思う。フレイムランドでは宇宙船の大きな事故は起きたことがない。もし、事故なら初の事例になるんじゃないのか。」「確かにそうです。ハイジャックも起きていませんが。」

 「確かにそうだが。フレイムランドのハイジャックに対する警戒は甘い。」「そうですね。身分の認証は指紋だけだし、手荷物の検査はありません。」

 「手荷物に銃器を持ち込むだけでできてしまうだろ。」「フレイムランドではハイジャックが起きたことがないのですから仕方ありません。犯人からの要求がないですがどう考えます。」

 「必要ないとしたらどうだ。」「HG00167便を乗っ取ってなにをするかですね。」

 「まあ、通信機の故障と言うこともあるからな。」「それはありません。宇宙で通信機は重要ですから故障しても良いように3機装備しています。3機とも故障はありえないでしょう。」

 「とにかく今は情報が欲しいな。」

セレーネ2はランド4周辺の捜索を続ける。


 コリンナたちは、乗客と乗員が本人に間違えないか映像と資料を見比べていく。管理センターの係員が言う。

 「指紋で認証していますから他人が乗ることはありえませんよ。」「確認して見なければわかりませんよ。」

乗客1000人と乗員136人の映像を資料と付き合わせるのだ膨大な作業量になる。しばらくすると団員が声を上げる。

 「こいつ、映像と資料が会わないぞ。」「えっ。そんなはずはありません。」

係員が慌てる。団員が言う。

 「アルベルト・ハシュのはずが別人に入れ替わっています。」「すぐにアメリーに連絡するわ。」

コリンナは大事になってきたと考える。

 「アメリー、アルベルト・ハシュと言う乗客が別人に入れ替わっています。映像を送るから人物を明らかにしてください。」「はい。手配します。」

アメリーは入手した映像を軍の情報部に送る。アルベルト・ハシュの件はセレーネ2へ知らされる。

 ブリュノが言う。

 「ハイジャックの可能性が高くなってきましたね。」「しかし、要求がない。犯人は何を考えている。」

クルトがハイジャックの理由を考える。

 コリンナたちの調査でアルベルト・ハシュ、ダニエル・バルト、エルマー・アーレンス、マリー・アーレンスの4人が別人に入れ替わっていることが判る。

 4人の別人の映像は軍情報部に送られ調べられる。そしてエルマー・アーレンス、マリー・アーレンスになり代わっていたのがディータ・フンメル、ビアンカ・ヘルナーとわかる。

 2人は浮島の住民で今は地球にいるはずだった。

 情報部は引き続き、背後関係を調査している。情報部はHG00167便の件を軍司令のアーリィ・ユーイングに報告する。

 宇宙軍の宇宙戦闘艦カンゲツと近衛騎士団の宇宙戦闘艦カゲツの乗員に招集がかかる。

 ブルーノは情報から思ったことを言う。

 「デニス反乱事件のデニス司令官は優秀な男だった。勤務地の浮島で慕われていたのではないか。」「そうするとこれは復讐になりますよ。」

クルトが言うとブリュノが言う。

 「これは都市が狙われているかもしれません。」「HG00167便がランド4を使ってスイングバイした時のコースと目標の都市を調べましょう。」

クルトの意見にブルーノたちは賛成して調査が始められる。

 近衛騎士団の宇宙戦闘艦カゲツの方が先に発進準備が終わる。マリア・メルル司令官がすぐに発進指示を出す。しかし管制からストップがかかる。オペレータかがマリアに言う。

 「アーリィ軍司令から極秘任務です。」「極秘だと。回してくれ。」

 「マリア司令、ランド3へ行き、もしHG00167便が来たら撃墜してください。」「民間船をですか。」

 「HG00167便はテロリストの手に落ちています。撃墜しないと都市が1つ消えます。」「了解しました。最善を尽くします。」

カゲツはランド3に向けて飛び立つ。

 宇宙軍の宇宙戦闘艦カンゲツのアーシャ・ウィルカーソン司令官もランド2に配置され、マリア司令と同じ指示を受ける。


 ブルーノたちはHG00167便のコースを2つまで絞り込む。1つはランド2のゲートタウンを狙うコース、もう1つはランド3のベスカーラを狙うコースである。

 ランド2のゲートタウンはフレイムランド最大の都市で軍の施設や多くの省庁が集まっており、物資も最大の流通量を誇っている。

 一方、ベスカーラは、湖の湖畔にあり、学園都市と観光都市の2面性を持っている。

 ブリュノが言う。

 「都市の重要度で言えばゲートタウンですね。ただ、軍が駐留しているのでテロの成功率は低いでしょう。」「べスカーラは成功率が高いか。」

クルトが別の面から発言する。

 「ゲートタウンに被害が出ればダメージは大きいですが、ベスカーラも同じことが言えます。学園都市ですので犠牲になるのは多くが学生です。インパクトは大きいでしょう。」

 「そうだな、ベスカーラのコースを選ぼう。」「ブルーノ、何か理由があるのですか。」

 「まあ、カンだ。」「私たちはブルーノに従います。」

3人は艦橋へ向かう。ブルーノは館内放送を使う。

 「聞いてくれ、HG00167便がハイジャックされた。我々はHG00167便を取り戻してテロを阻止する。パイロットには船に潜入して犯人を排除。船を無事に着陸させる。詳細は追って伝える。最大船速で行くぞ!」

団員はハイジャックと聞いて驚くが、これこそやりたかった仕事だと気合を入れる。

 HG00167便では、乗客は誰一人ハイジャックに気づいていなかった。犯人たちは、操縦室と通信室を占拠して船のコントロールを握っていた。


 ゲートタウン宇宙港の男性用トイレで死体が発見される。いつまでも使用中になっているトイレがあるため、清掃員が確認して死体を発見したのだ。

 すぐに宇宙港警備の騎士が2名トイレに向かって死体を確認する。騎士たちは首を絞められて殺されていると判断する。さらに死体の右手の人差し指が切断されていた。

 顔認証から検索すると死体はダニエル・バルトであることが判る。騎士は軍に報告して、ダニエルバルトがHG00167便の乗客であったことを知る。

 宇宙港港警備の騎士団が招集され、宇宙港内の捜索が開始される。捜査の結果、他に3体の死体を発見して、人物をアルベルト・ハシュ、エルマー・アーレンス、マリー・アーレンスと判断する。

 騎士たちは現場近くの監視カメラを調査して犯人の特定を急ぐ。死体発見の情報はハンティング・ウルブにも共有される。

 「ブルーノ、消えた乗客の死体が発見されました。」「どこで発見された?」

 「宇宙港の中です。」「そうか、初めから犠牲者をマークしていたな。」

 「かなり大胆な犯行です。指紋認証は犠牲者の指を使ったそうです。」」これ以上犠牲者を出したくないな。」

 「それはわれわれしだいですね。」「宇宙軍も動いているのだろ。」

 「もちろん、おそらく、HG00167便を撃墜するはずです。」「あれには1000人以上乗っているんだぞ。」

 「私やブリュノなら発見次第破壊します。その方が被害は確実に少なくできます。」「クルト、おまえ・・・」

 「ブルーノなら助けようとするでしょうね。」「その通りだ。」

 「私たちは団長の判断に従って、最善策を取ります。」「なら、HG00167便は助けるのだな。」

 「そうなります。」

ブルーノはHG00167便を破壊する考えを持っていなかったのでクルトの意見に衝撃を受ける。クルトの考え理解できるがHG00167便を助けたい。自分は甘いのかと考える。


 セレーネ2はHG00167便を発見する。ブルーノのカンは正しかった。犯人はベスカーラを狙っているのだ。ブルーノは管制に報告する。するとアーリィ軍司令から通信がある。

 「ブルーノ・ハルトマンに指示があります。極秘裏にHG00167便を撃破してください。」「お断りします。すでにHG00167便の救出プランがあります。」

 「ランド3には近衛騎士団のカゲツが待機しています。一緒に撃墜されたいのですか。」「我々が犯人を排除して助ければ済むことです。」

 「認められません。ベスカーラ80万人の命が掛かっているのですよ。一切の賭けはできません。」「私たちは両方を救って見せます。」

ブルーノは一方的に通信を切る。ブルーノがクルトとブリュノに言う。

 「済まない。ハンティング・ウルブズを危険に巻き込んでしまった。」「まだ、時間があります。予定通りやりましょう。」

オペレータが告げる。

 「HG00167便に接触するまで3時間です。大気圏突入までの猶予は30分しかありません。」「エリク、聞いたか速やかに計画を遂行しないと地面に激突するぞ。」

ブルーノは人型搭載機クリスのリーダー、エリク・ジャックミノーに言う。

 「大丈夫だ。船の図面は頭に入れている。それに通路か大きいから、クリスで移動できる。大気圏突入までにはコントロールを奪えるよ。」「分かった。頼むぞ。」

 「ルイーズ、リリアーヌ、レオン、聞いたか、俺たちが一番活躍できるぞ。」「でも命がけだよ。」

 「これまでも生き残っていただろ。」「そうね。」

セレーネ2には5機のクリスと3機のエレクを搭載しているが、腕の立つ4人が選ばれて、HG00167便に突入することになっている。

 2時間50分が過ぎ、HG00167便が目視で確認できるようになる。

 「どうだ、様子はわかるか。」「変化は見られないようです。船体に破損は確認できません。」

ブルーノはエリクに言う。

 「船の状況は不明だ。接触5分前に発進だ。準備はいいな。」「任せてください。」

セレーネ2の前部ハッチが開く。クリスは甲板に出て緊急発進に備える。オペレーターからカウントダウンが始まる。

 「エリク、ルイーズ、リリアーヌ、レオン始めますよ。5,4,3,2,1,発進。」

4機のクリスは横並びで全力加速してセレーネ2を発進する。エリクたちの目にはHG00167便が見る間に近づいて来る。4機はHG00167便の後部ハッチに取りつく。

 エリクがクリスの背中に装備している刀のロックを外す。刀は上にせり出して自動でクリスが右手に装備する。

 刀はオルカル81製でフレイムランドで最も硬い金属でできており切れ味は抜群である。

 エリクは刀で後部ハッチに穴を開ける。ハッチは紙のように易々と切れる。4機は穴から後部カーゴスペースに入り作業用エレベーターに4機とも乗り込む。ルイーズが言う。

 「この船なんで、こんなにエレベーターが大きいの。」「通路も大きし、金持ちのやることはわからないね。」

レオンが答える。エリク、ルイーズ、リリアーヌが1階フロアで降りて操縦室を目指し、レオンは4階フロアで降りて通信室を目指す。


 近衛騎士団の宇宙戦闘艦カゲツは、HG00167便が予想進路から大きく外れて急角度で大気圏突入するため、急いで移動をしている。

 マリア指令はこのままでは大気圏突入前に撃破できないと考え、人型搭載機ワルカを先行させて狙撃することにする。マリアはアウレール・へリングに言う。

 「アウレール、重大な指示を出す。今からカゲツを発進して最大加速で進み大気圏に突入しようとしている客船を墜としてほしい。」「俺がですか。」

 「君の腕を見込んで言っている。鮮血のワルカの二つ名を信じているぞ。」「分かりました。」

アウレールは最大加速でカゲツを発進する。ワルカで加速を続けて大気圏突入6分前でHG00167便を補足する。まだ、ライフルの射程外だがライフルに魔力を乗せれば届くと判断する。

 「スター3、アウレールです。客船を補足、ライフルの射程外だが魔力を乗せて増幅すれば届くと判断、射撃の許可を願う。」「許可できない。ライフルの射程内から魔力で増幅して確実に撃破せよ。」

アウレールは、客船を撃つことに抵抗はあるが、都市と引き換えはできないと割り切っている。さらに、マリア指令は随分慎重になっていると考える。

 その頃、レオンが4階フロアに降りて通信室の前に到着してクリスから降りる。レオンはドアのロックに爆薬を仕掛けて爆発させる。レオンは力任せにドアを開けると銃撃される。

 弾が左肩と右太ももに当たるがパイロットスーツには防弾能力があるため弾を通さない。しかし、着弾の衝撃までは緩和されない。骨に響くがレオンは痛みに耐える。

 そして、自動小銃を撃ち込む。爆発の煙が晴れると犯人は2人いた。1人は頭に銃弾を受けて即死である。もう1人は女性で、右手を撃たれて銃を床に落としている。

 レオンは女性を結束バンドで拘束して、無線を入れる。

 「こちらHG00167便、犯人1名を拘束して通信室を取り返した。ハンティング・ウルブズは潜入に成功した。繰り返す。潜入成功だ。」

アウレールは初めてハンティング・ウルブズは救出作戦をしていることを知る。

 「マリア指令、救出作戦があると知っていたのですか。」「ああ、アーリィ軍司令の指示を無視して動いている。」

 「今、かつての仲間が乗り込んでいるんです。撃つことはできません。」「いいや、アウレール、君が撃つんだ。これはフレイムランドの騎士に使命だ。」

 「しかし、きっと船は助かります。」「確実ではない。もう大気圏突入まで2分を切った。こちらもチャンスは1度だけだ。頼むぞ。」

たしかにまだコントロールを奪い返してはいない。ライフルの射程に入ったらすぐに撃たないと船は大気圏に突入するだろう。アウレールは葛藤する。

命令は絶対である。個人の感情で背いていたら軍は成り立たない。「ブルーノの兄貴ならどうする」アウレルはHG00167便に照準を合わせる。

 そしてライフルの射程に入ると同時に撃つ。ライフルのエネルギーは魔力で増幅されている船にかするだけでも致命的なダメージになるだろう。

 ライフルのエネルギーは真直ぐHG00167便へ向かう。そして、ぎりぎりの所を通過していく。外れたのだ。マリヤ指令から通信が入る。

 「外したな。私の期待に背いたな。後でしごいてやる。」「はっ。」

マリア指令は新しい指示を出す。

 「大気圏に突入する。砲撃戦用意。」「アウレールが近くにいます。彼に攻撃させましょう。」

 「無理だな。」

アウレールのワルカとHG00167便の間にセレーネ2が割り込んできている。マリアはセレーネ2との砲撃戦も視野に入れている。


 エリク、ルイーズ、リリアーヌは、1階で降りると通路をクリスで飛んで進む、少しでも操縦を誤れば壁に激突することになる。歩く方が安全だがその時間はない。

 しばらく進むとセンターエレベーターに到着する。エリク、ルイーズ、リリアーヌは再び乗り込み、操縦室のある5階を目指す。5階で降りるとレオンが通信室を奪還した報告が入る。

 「レオンがやったわよ。」「急ごう、大気圏突入まで時間がない。」

エリク、ルイーズ、リリアーヌは操縦室の前まで行くとクリスを降りて操縦室ドアに爆薬を仕掛ける。3人は拳銃を手にすると爆薬を爆発させる。エリクがドアを蹴り破る。

 ルイーズ、リリアーヌが身をかがめて突入する。犯人は自動小銃を撃ってくるが、こちらは計器を壊すことはできないのでじっくり狙って確実に仕留めなければならない。

 セレーネ2ではアウレールのワルカを発見する。オペレーターがブルーノに報告する。

 「ワルカがHG00167便に接近しています。真紅の機体ですのでアウレールかクリスタの機体だと思われます。」「あいつらは、今は近衛騎士団の一員だ。セレーネ2を盾にする。割り込め。」

 「了解。割り込みますがHG00167便と共に大気圏に突入しますよ。」「分かっている。カゲツが来るぞ。砲撃に備えろ。」「了解。」

ルイーズが犯人にヘッドショットする。自動小銃弾がルイーズの胸に当たる。エリクが心配して言う。

 「大丈夫か。」「スーツは防弾なんだから、でもあばらが折れたかもしれないわ。」

リリアーヌが残りの犯人の心臓と頭に銃弾を撃ち込む。すぐにエリクが操縦席に座る。リリアーヌがルイージに変わって副操縦席に座って無線を送る。

 「こちらHG00167便、操縦席を取り返した。」

その時、振動に襲われる。HG00167便が大気圏に突入したのだ。同時にセレーネ2も大気圏に突入する。カゲツから無線が来る。

 「セレーネ2どけ、HG00167便を撃破する。」「待ってくれ。操縦は取り戻した。落下地点を変えられる。」

 「もう遅い。べスカーラがどれだけ大きいと思っているんだ。」「衝突は起こらない。頼む。」

 「時間切れだ。どかないのなら貴艦もともに撃破する。」

マリア指令の言葉にブルーノは覚悟を決める。

 「カゲツから砲撃があるぞ。防御スクリーンを展開。ショックに備えよ。」

マリア指令は砲撃の指示を出す。

 「全砲門、目標HG00167便外すなよ。」「目標の前にセレーネ2がいます。」

 「かまわん撃て。」「発射。」

砲撃がセレーネ2に集中する。防御スクリーンが働き、砲撃を防ぐ。

 「全弾命中しましたが。防御スクリーンに防がれ成した。」「射程ぎりぎりだからな。次はもっと近くなる墜とせよ。」

 「次射が最後になります。」「目標変わらず、全砲門撃て。」「発射。」

次の砲撃がセレーネ2を襲う。防御スクリーンを破り、装甲に砲撃が届く。

 「命中しましたが目標健在。コースを外れます。砲撃不可能です。」「守りきったか。このまま監視を続ける。」「了解。」

セレーネ2では装甲に穴が開く。ブルーノがオペレーターに聞く。

 「被害はどうだ。」「左舷2階第3区画を遮断しました。人員に被害は無し。」

ブルーノは冷や汗をかく、カゲツに砲撃を受けて無事だったのだ。人員に被害が無いのは幸運だった。


 アウレールのワルカはHG00167便と一緒に落下している。もう時間は残り少ない、アウレールはHG00167便の船底に取りついて噴射装置を噴射させる。

 HG00167便ではエリクが必死に船首を起こそうとする。しかし、効果はわずかだ。リリアーヌがセレーネ2に依頼する。

 「エレクとクリスを出してHG00167便を押すのよ。」「えっ。」

 「時間がない。すぐやる。」「了解。」

セレーネ2からクリス1機とエレク3機が発進する。4機は船底に取りついて噴射装置を噴射させる。HG00167便の船首が徐々に起き上がる。

 HG00167便の船底に抵抗がかかりスピードが落ちていく。落下予想地点がベスカーラから擦れていく。それでも地面に激突すれば大災害が起きる。

 ついに船首を起こし水平になる。ベスカーラの街をかすめて、地面がまじかに迫る。ワルカと4機のエレクとクリスは避難する。HG00167便は森林地帯にかなりの勢いを残したまま緊急着陸する。

 ほとんど墜落に近い状態で、船底の着陸用の足もすべて折れる。ハイジャックにいづいていなかった乗客や乗員の中から多くのケガ人が出るが死者は出なかった。

 HG00167便のパイロットたちと通信士は殺されていた。監視していたカゲツが乗客や乗員の救助に動き出す。

 その後の調査で犯人は、浮島の住人でデニス指令の熱狂的な賛同者2名と東京の住人2名とわかる。犯人の生き残りビアンカ・ヘルナーの自白で事件にはウロボロスと言う犯罪組織が関わっていることが判る。

 さらに、マリー・メフィウスと言う少女が空間操作して地球からフレイムランドへの異世界の入り口を作ったことが判る。マリー・メフィウスについては調査を続けているが何者か判明していない。

 ほむら王は、今回のテロ事件の被害を最小限にした功績でハンティング・ウルブズのメンバーに勲章を授与することに決める。

 これには、アーリィ軍司令からハンティング・ウルブズには重大な違反があると抗議が来ていたが、ほむら王は結果を優先した。

 授与式には、アーリィ軍司令、マリア指令官、アーシャ司令官が参加する。ハンティング・ウルブズ団員83人を代表してブルーノの胸にほむら王が勲章を付ける。

 「諸君はベスカーラに住民80万人の命を救った。私たちはハンティング・ウルブズをフレイムランドに呼んでよかったと思っている。」「ありがとうございます。」

式が終わった後、マリア指令がブルーノに話しかける。

 「砲撃はエネルギーの減衰が大きかったため、撃破することが出来ませんでした。撃破していれば勲章は我々のものでした。」「私は間違っていません。」

 「今回はそう言うことししておきましょう。次は撃破しますよ。」「肝に銘じておきます。」

 「あなた方は命令に縛られない。うらやましく思いますよ。」

マリア指令は笑顔を見せて去って聞く。ブルーノはマリア指令は、俺たちの行動を肯定していたのかと思う。会場では勲章をもらった団員たちが騒ぎ出す。

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