最強の魔法使い
意外な一面
翌朝。
スッと目が覚めた私は、隣でぐっすりと眠っているルシナに一瞬目を止めて起き上がった。
音を立てないようにベッドを下り、洗面台へ向かう。
顔を洗い、櫛で髪をとかしながら考える。
(やっぱり昨日は喋り過ぎたか)
あの後、部屋へ戻ってからもルシナとは話すことがなかった。
あちらは何か言いたげにこちらを見ていたが、話しかけてこなかったので無視していた。
(黙っていてくれるとありがたいが)
口封じできれば手っ取り早いのだが、生憎私は、それができる立場ではない。
むしろ口封じされる立場だ。
(いっそ賄賂でも渡すか)
いや、犯罪に走るのはあまり良くないな。
ため息をついて櫛を置いた。組紐を使って髪をまとめ、結ぶ。着替えをするために寝室へと戻った。
「………」
未だにベッドの上で気持ちよさそうに眠っているルシナを半眼で見る。
壁に掛けられた魔導式時計を見、カーテンを開けて空を見る。
現在朝の7時45分。空は快晴。そして、我がミネルバ学園の登校時間は8時半。
寮と校舎が繋がっているとはいえ、朝食を食べて行くとしたら、もう起きていなければならない時刻のはずだが。
「あの、ルシナ様」
ルシナのベッドの横に立ち、呼びかけてみる。
ルシナの反応はない。相変わらず気持ちよさそうに寝息を立てている。
「あの」
先程より大きな声で呼びかけてみるも、結果は同じ。
思わず深くため息をついてしまった。
「……後から怒らないでくださいよ」
一言断りを入れてから、私はルシナがひしと掴んでいる掛け布団をむんずと掴んだ。それをそのまま、勢いよく捲り上げる。
「ルシナ様、起きてください。遅刻しますよ」
布団を失って縮こまるルシナを揺さぶる。
しかしルシナは「うーん」と唸って寝がえり。
なんてこった。まさかのまさかで、ルシナが寝坊助だなんて。
「あと5分……」
「ダメです」
子どものような言い訳をするルシナを引っ張り起す。
「ほら、歩いてください」
眠気眼のルシナを洗面台まで引っ張っていく。
ルシナは最初こそ小さく抵抗をしていたが、私が蛇口を回して水を出してやると、素直に顔を洗い始めた。
その間に私は、ルシナのクローゼットを勝手に漁って制服を取り出す。
それらをベッドの上に並べると、今度は二人分の授業の準備をする。
鞄にノートや教科書、筆記用具などを詰め込んだ。無礼など、今更知ったことではない。
荷物の準備ができたところで、ようやくルシナが寝室へ戻ってきた。
まだ眠たそうに瞼をこすっている。どんだけ朝が苦手なんだ。
「ルシナ様。早く着替えてここに座ってください。髪がボサボサです」
制服を渡して急かす。
登校時間までは後30分ほどあるが、ルシナの乱れに乱れまくった髪を整えるには20分くらい必要だ。
「着替えた…」
「座ってください」
うつらうつらなルシナを引っ張ってベッドの上に座らせ、自分はその後ろに回って櫛を手に持った。
鳥の巣と化しているルシナの長い髪と向き合い、丁寧に解していく。
(一体どんな寝方をしたらこうなる)
この御方、ここにくるまでは朝どうしていたんだろうか。
執事とかメイドが、毎朝起こしに来て髪を整えてやっていたのだろうか。
(まさか、皆んなの憧れの公爵令嬢様が、朝がこんなにだらしない方だったとは)
まあ、少々驚きはしたが、こちらの方がいくらか親近感は湧くかもしれない。
元いじめられっ子の転生令嬢は、悪役令嬢を助ける。 望月宵 @mi-tuki
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