第11話
聞き覚えのある声がした。勢いよく顔を上げる。すると目の前にはあの時の男がいた。
前回は青色の仮面に紺色のローブを纏っていたが、今回は黒色のタキシードを着ている。
「……っ、どこに居たんだ?俺、ずっと、探して――」
「探してくださっていたんですか。嬉しいですね。」
そう言って笑みを零すシドに俺は頬が紅潮するのを感じた。胸が熱い。言葉も上手く出ない。どうしたものか。シドを前にするとこうも上手くいかなくなってしまうなんて。俺はおかしくなってしまったのか。
「シド、踊ろう。一緒に。ずっと探していた。」
本当に俺はダメだ。テンパりすぎて言葉が途切れ途切れにしか出てこない。もう自分が何を考えているのかも分からない。
「ふふ……ありがとうございます。もちろんです。ただ……少し、待っていて貰えませんか?」
ああ。いくらでも待つ。そんな気持ちの悪い言葉を飲み込んで、俺は黙って頷く。
シドはそれを言い残したあと、少し離れた男の所へと話をしに行ってしまった。
ああ――シドと話すことが出来た。再び、会うことが出来た。やっぱり俺たちは運命だったんだ――
そんな気持ちで俺は約5mほど離れた場所にいるシドをまじまじと見つめる。
黒色のタキシード……とても似合っている。前回はローブで体の線が隠れていて分からなかったが、驚くほどスタイルが良い。服の上からでもわかる、無駄な脂肪の無い腹部、綺麗に筋肉がついた太もも、細い足首。それに見合わず大きな足。全てが魅力的だ。白い肌と黒色のタキシードのコントラストがとても良い。こう、心の底から湧き上がってくる不思議な感覚に襲われる。恐らく筋肉のついているであろう厚い胸板。そして上半身。下に目をやるとなだらかな曲線を描く尻が見える。そして何よりその仕草。自分に自信がないと出来ない堂々とした態度。ああ――シド。会いたかったよ。君に。本当に会いたかった。
君のいい所なら無限に言えてしまう。俺は君に狂わされている。
「ギャレットさん、話が終わりました。さあ、ホールに出て踊りましょう。」
シドがこちらに向かい歩いてきてそう言った。シドがこちらに向かって歩いてくる、その事実だけで俺は今にもここで死んでしまいそうだった。
「ああ。……ありがとう。」
「さあ。一緒に行きましょう。」
そう言ってシドは俺の手を握る。シドに手を握られてしまった。前回も同じように手を握られたが、最近はシドに手を握られる妄想ばかりしていたため、これが現実なのかなかなか受け入れられない。シドの手はやはり最高だ。見ただけでは分からない。触ってみて初めてわかる、スベスベで、ささくれも見当たらない。恐らく丁寧に手入れをしているのであろう。
シドはその手でホールへの扉を開ける。
「きゃあ!シドさんよ!」
Masquerade・Suicide @yurara34
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