第10話
9月12日。待ちわびた舞踏会の日。
1人でなんとか城に辿り着き、ホールへと向かった俺はただひたすらにシドを探し回っていた。
前回のように分かりやすく人が集まっているところにいて欲しかった。そうすればシドの姿を早く見つけることができる。ああ。早くシドの姿を見つけて安心したい。シド、早くその声で俺を魅了してくれ。その笑顔で、フワッと笑った時の柔らかな口元で、俺を貴方の虜にしてくれ。
しかし、どれだけ走り回ってもシドがいない。最悪の想定だが……今回、シドは参加していないのでは?
そう思った途端、頭が真っ白になった。
シドが参加していない?そんなことあるか?いや、完全にないとは言いきれない。シドだってプライベートではニックと同じように仕事をしているかもしれない。いや、年齢が分からないからなんとも言えないが、もしかしたら学校で出された宿題に追われていたり……いや、さすがにシドは成人済みであろう。あんなに落ち着いた声で肝の座っている学生がいてたまるか。
――今この場所はホール。舞踏会の参加者が立ち入れる場所は、この場所の他に食堂と控え室がある。俺はシドがホールにいることを前提として探していたが、もしかしたら食堂や控え室にいるのかもしれない。そちらも探しに行ってみよう。少し希望が見えた気がする。
俺は食堂へと駆け出す。
「……はぁ、」
食堂は人1人おらず閑散とした様子だった。ホールはあんなにも混んでいるのに食堂に人がいないことなんてあるのか?参加者には無料で食事が提供されるんだぞ。まあ、午後8時からの開催だから晩御飯を食べてから来る人が多いのかもしれない。残るは控え室のみ。控え室にシドは居るのか、段々鼓動が早くなってきた。シドに会えるか、居ないか、その二択。天国と地獄だ。
ガチャ、と控え室の扉を開ける。
ホールとは対照的に静かな控え室にはドアを開ける音が響き渡り、その場にいたほぼ全員がこちらを見る。
その顔ぶれの中にシドは居なかった。
――シドは、居ないのか?
1ヶ月も待ったのに。この1ヶ月、俺はシドに会うことだけを目標に生きてきたのに。
俺は落胆した足取りで控え室の椅子へと向かい、それに座る。一般的な椅子より小ぶりなその椅子はフカフカで座り心地が良く、少し気分も落ち着いた。
しかし、まさかシドが居ないとは。
そんなことがあっていいのか。ああ。もうホールで流れている音楽ですら鬱陶しい。俺を1人にさせてくれ。
「……ギャレットさん?」
「……シド?」
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