第20話未来
ー令和ー
ここにはとても効果が高い『椿神社』という神社がある。
神様の名前は”椿”と言うそうだ。
パワースポットとしても有名で特に仕事に成功を収めたい者は必ずここに参拝しに来るのだとか。
「っはぁー!やーっと来れたで、椿神社!」
そこにある新米政治家が参拝しに来た。
「なんやえらい澄んだ空気やな?ここだけ別世界みたいや。」
飄々とした喋り方と人目を引く赤色のアイライン。
桃の木でできた扇子を楽しそうにパチン、パチンと開いては閉じてを繰り返す。
そしてパッと開き口元を隠した。
「ほんまにご利益あるんやろか?まぁ願掛け程度にはええけど。」
そう呟いてお賽銭を投げ、鈴をガランガランと鳴らす。
パンパン!と活きのいい拍手をした後、その男は言った。
「えー。この国取りに行くんで力貸してや椿。頼りにしてるで。」
元気よく言った言葉に返事など来るはずもない。
だがその政治家の耳には聞こえたのだ。
『まったく…あなたは生まれ変わっても変わりませんね…』
「なんや?!なんか今、女の声が…」
『この国を取るまで…お供しますよ清麻呂様…』
「僕の名前…え、なんでや?こわ!!」
清麻呂様と呼ばれた男はどういう事かと慌て境内で1人、わぁわぁと騒ぐ。
その異変に気づいた神主が清麻呂の前に現れた。
神「あの、どうかしましたか?」
「うわビックリした!!どうかって、なんか今、女の声で名前呼ばれてん!名前だって言うてへんのに呼ばれたんやで!!」
神「ほぉ!左様ですか、貴方様のお名前は?」
「名前?一条清麻呂や。あっこのでーっかい家あるやろ?昔っからエリート政治家やねん。そこの次男坊。」
神「なるほどなるほど!はっはっは!これはたまげた!」
困惑する清麻呂を放ってお腹を抱えて笑い出す神主。
もしやヤバい奴だったのでは?と距離を開ける清麻呂に申し訳ないと一言謝罪し、訳を話しだした。
神「ここは椿神社。その成り立ちは平安時代にまで遡ります。」
「平安時代?そら立派なこって。」
神「えぇ、私の役人だった先祖が建てたんですがね。当時それはそれは力のある陰陽師がいたそうなんです。名前が椿」
「ぴくっ」
神「そしてその陰陽師の主が、一条家次男。一条清麻呂」
「…僕やん。」
神「えぇ、きっと椿様は今、あなたのお傍で微笑んでおられますよ。不思議な巡り合わせだ」
力のある陰陽師。名前は椿だと聞いた時なぜか懐かしさが込み上げてきたのだ。この話が真っ平嘘だと言いきれない。
それでも気味悪いわぁと渋い顔の清麻呂に、神主は少し待つよう言い本殿へ入っていった。
「なんやそそっかしい。あ、戻ってきた。」
神「これをあなたに。」
「こりゃまた随分古い扇子やな?でも造りがしっかりしとる。ええんか?もろて」
神「これはあなたが持つにふさわしいですよ。国取り、頑張ってくださいね。」
「なんで知っとるんや。こわ。」
神「はっはっは!いやまったく資料通り!今のこの人生、期待しておりますよ。」
そう大きく笑って扇子を託し、その場を去る神主。
清麻呂はどこかで聞いたようなセリフだなぁと頭を悩ませたが、渡された扇子を見つめギュッと握った。
「なんや分からんけど、えらいしっくりくる扇子やしもろとこ。よし!ここからが僕のスタートや!行くで、椿!ー…て、何言うてんねん自分。」
んんー??と最後まで首を捻る清麻呂の背中を風が優しく押す。
そして目の前を椿の花がユラユラと落ち、それを見つめた清麻呂は笑って出発していった。
2人の歯車がまた動きだす。
一条清麻呂の国取り計画 ペンギン @Yun77
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