第19話処刑の日

清麻呂が連行されて1ヶ月。


街では2人を心配する声が溢れ、今にも反乱が起きそうな空気だ。


そんな中流れた『一条家次男、清麻呂の処刑』ー。


街はザワめき人々はこの話しで持ち切りだ。


そして処刑当日。


役『一条清麻呂、お前は国取りを目論み国家転覆を行おうとした。よって斬首に処す』


「くっ」


役人が罪状を読み、悪人さながらに縄で体を縛られ頭を押さえつけられる清麻呂。


その姿に見に来ていた街の人達は悲鳴を上げ、泣き叫び中止を訴えかけていた。


役『よくこれだけ民衆の心を掴んだな。』


「そりゃ…僕はこの街が好きやさかい。この街のために頑張ったんや当たり前やろ。」


役『そうか。…お前がもっと違う道を選んでいたなら、この国はより良くなっていただろう。』


「!!」


役『残念でならない。言い残す言葉はあるか。』


「言い残す…言葉」


役『これだけ頑張ってきたのに最期は1人だ。そのくらい聞いてやる。』


役人の温情だろうか。


街の人達の声がBGMのように聞こえる中思い出すのは椿だ。


攫われた椿は無事だろうか。


辛い目に合っていないだろうか。


あの子は…笑う日が来るのだろうか。


できればその顔を見てみたかった。


ーポタ…ポタ…


「せやなぁ…椿に会いたかった。それだけや。」


役『そうか。』


寂しい気持ちが涙となって流れていく。


自分は思ったより椿が大切で大好きだったんだと、死ぬ間際に思い知らされていた。


「あなが泣くところ、初めて見ました。」


「椿…?なにしてるんや、ここ処刑場やで!?」


「知ってます。」


そんな中、俯いた清麻呂に投げかけられたいつも通りの声。


その声の主は自分と同じように白い着物を身にまとい、悪人のように体を縄で固められそして、清麻呂の横にゆっくりと座った。


「知ってるって、君まで死ぬ事あらへん!!お前は生き、椿!!」


「…清麻呂様、何を言います。」


「は?」


「私の生きる意味は清麻呂様、あなたです。」


「あ…」


「あなたが私に言ってくれた言葉ですよ。僕が生きる意味になったるって。」


「せやけど…」


こちらを1度も見ずにつらつらと喋る椿。


縛られて後ろに回っている手は震えているのだ、怖くないわけがない。


それでも椿は清麻呂の横を動かなかった。


「それにいつぞやも言いましたよね。相棒なのに頼られないのは傷つくって。それ、私もです。」


「!!椿…」


「約束、したじゃないですか。貴方が首を跳ねられる瞬間もお供しますよって。」


「まさか最初から分かってたんか!?」


まさかあの約束が現実になると思っていなかった清麻呂は驚き、声を荒らげる。


分かっていたならなぜ自分についてきたのかと。


断ればよかったではないかと。


「一目惚れです。初めてあなたの強い覚悟を持った目を見た時に惹かれてしまいました。」


「なに言うて…」


「約束、守らせて下さいね清麻呂様。」


「っ!!」


にこ。


初めて見せた椿の柔らかい笑顔に言葉を詰まらせてしまう。


そうしている内に、斬首する役人が椿の後ろに立ってしまった。


「先に逝ってお待ちしております。」


ーザン!!


ゴンッーゴロ…


「…なんや…笑った顔、ごっつ可愛ええやないの…。」


ドサリ。と人の倒れる音と一段と大きくなる悲鳴。


自分の足まで転がってきた椿の首は、とても安らかな可愛らしい笑顔だった。


役『…もう、いいのか。』


「かまわへんよ。あんまし待たせたくないしな。」


役『そうか。生まれ変わる事があれば次の人生を期待する。』


「そらおおきに。」


椿のその顔を見て、穏やかに笑って。


ーザン!!


と言う無慈悲な音と共に清麻呂は人生を閉じた。


この日2人の歯車が完全に止まってしまったのだ。






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