第5話 ストーカーされる日々

 その翌日以降、市原さんは俺に引っ付いて回るようになった。


 登校時も、途中の乗換駅から俺を追尾し、満員電車の中俺にくっついてきた。


 当然駅から学校までも一緒。さすがにくどくなってきた。


「あの……一条くん。委員長と付き合ってるの?」


 沙原さんとのランチタイムにまで市原さんはついてきた。


「交際関係にはありません。師弟関係です。師匠の一挙手一投足を見逃さないようにしているので」


 市原さんはそんな大げさなことを言ってのけた。


 マズいな。沙原さんが女子グループでどれだけの権力を持っているのかは知らんが、こんな奇行を繰り返していては市原さんがハブられてしまう。


 止めさせたほうが良さそうだ。


「市原さん、もうそろそろ止めようか。ストーカー規制法的にもヤバいし」


「えっ、師匠は私をストーカー扱いするのですか?」


 市原さんは絶望した顔で訊いてくる。


「いや、そうじゃないけど、周りの人が見たら完全にストーカーだよ。勘違いされるから止めな?」


「いやです! 私は師匠から全てを学び取るまで止めません!」


 さすがにおかしいな。市原さんが今までどんなキャラだったのかは知らないが、高校生にもなって師匠呼びはありえない。何かありそうだな?


「市原さん、ここは空き教室だ。しばらく生徒も先生も来ない。困りごとがあるなら言ってほしい」


 市原さんは一瞬困惑したような顔をしていたが、すぐに真面目な表情になった。


 何かを決意したらしい。どうやら俺の勘は当たったようだ。


「実は、藤堂がいなくなってから、ストーカー被害に遭ってて……」


 聞けば、自宅前で担任の教師の姿を見たらしい。それから、校内で何かと視線を感じたり、当該教師の授業で何度も当てられたり、ということがあったらしい。


「市原さんはストーカーじゃなくて、ストーカー被害者の方だったのか」


「もう、勇気を出して言ったのに茶化さないでください! 私は師匠のストーカーではなく弟子です!」


 その設定、まだ引っ張るつもりか。


「つまり、身の危険を感じて一条くんに引っ付いて回っていたと?」


 沙原さんがまとめる。若干だが、口調から嫉妬のオーラを感じる。三角関係はやめてくれ。


「う、その通りです。師弟関係ってことにしとけば、怪しまれないかもと思って」


「いや、逆にめっちゃ目立ってるよ。俺からハッキリ言ってやろうか?」


「やめてください! 内申点が下がっちゃう!」


 ハッとしたように市原さんは口を押える。次いで、怯えた様子で周囲を見渡している。


「担任だか何だか知らんが、一介の教師にそんな権限ないだろ。退職に追い込めばいいだけだ」


「いや、そんな大ごとってわけでもないし……」


「大ごとだろ。市原さんが現に困ってるんだから」


 困った挙句にこんな奇行に走るのだから大ごとだ。


「一条くん……」


 なぜか市原さんは潤んだ目でこちらを見つめてきた。師弟関係の設定はようやく止めたらしい。


 なんにせよ、この学校にはまだ厄介な奴がいるようだ。






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サイコパス認定されたぼっち、なぜか美少女に囲まれる 川崎俊介 @viceminister

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