第4話 突然の弟子入り

 沙原さんとのランチを終え、俺は逃げるように屋上へ駆け込んだ。


「やっぱここが落ち着くな」


 ぼっち生活を送ってきた俺にとって、美少女と長時間話すのは精神的にキツイ。偉そうにしてるクズ野郎相手なら強気に出られるのだが。


 それもこれも、小中学時代にいじめっ子と壮絶な戦いを繰り広げてきたせいだろう。なぜか俺はナメられやすいので、ハッタリを武器に自衛する手段を身に着けた。


 無論、相手が殺人に抵抗のない人間だったらこのハッタリは効かないので、リスキーではある。とはいえ、いじめに屈するよりは戦って死んだ方がマシだ。


「あの、一条くんですよね?」


 見ると、藤堂に教育係扱いされていた委員長だった。


「そうですが、あなたは……えっと」


「市原帆波です。よろしく」


「あぁそうでしたね。俺は一条恭二です」


 俺が名乗ると、市原さんはおかしそうに笑った。


「知ってるよ。だってあのとき私たちを助けてくれた人の名前を、忘れるわけない」


 なんか俺、微妙に神格化されてないか? 俺に対する扱いが大げさ過ぎる気がする。


「実は、一条くんに相談があって」


 まさか、恋愛相談とかじゃないよな。そうだったら俺の管轄外だ。


 市原さんは恥ずかしそうに逡巡した後、ようやく口を開いた。


「喧嘩に強くなるにはどうすればいいですか!?」


「え?」


 市原さんみたいな真面目な女子から『喧嘩』なんてワードが飛び出すことにもビックリだ。だが、それ以前に俺、喧嘩に強いと思われてるのか?


「いや、俺に訊くことじゃないと思うぞ? 俺は口先でハッタリをかましただけだし」


「じゃあ、どうやったらそれだけの度胸がつきますか!?」


 困ったな。


 俺の戦法は常に見下されてきたからこそ編み出せた戦法。


 陽の当たるところで生きてきた美少女たる市原さんに、そんなものは必要ないはず。ましてや、今後いい大人になってからそんな技術が必要になるとは思えない。


「いや、俺も自然とこうなってたから、方法は分からない」


 俺はそう答えて言い逃れようとする。だが。


「よく分かりました! 見て盗めということですね。では私、一条くんに弟子入りします! 常に動きを観察し、その精神性にあやかれるよう努力します!」


 なんかおかしな方向に話が逸れたが、ひとまず喧嘩の技術を教えることは避けられたので、放っておくか。







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