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 落下地点のあたりを探すと、背の低い木にひっかかった竜日を見つけた。

 気絶しているようだった。慌てて医者に見せたが、大きな外傷は見つからず、寝ているだけのように見えるということであった。

 病室にはジャカの他にマールとスィスがいる。トーリやカル、他の連中にはいつもどおりに過ごすように伝えて解散させた。


「なんだったんだ? さっきの」

「わからないわ。黒色の龍だなんて」

「ありゃあ予言者の成れの果てでしょ」

「どういうこと?」


 予言者の国で資格を得た予言者は旅をする。

 各地で『最悪の事態』を回避する為の予言を行う。超越的なイメージは、龍から下ろされているらしい。雲よりも高い位置に、世界を一周できるくらいに長い、白い龍がいて、予言はすべてそこから来ると言われている。

 予言者達の中には偽物もいるし、資格を失い二度と予言者の国に入れなくなる者もいる。それはまだいい。より悪いのは、予言者の力を意図的に私利私欲のために使った場合。


「まあ最近ちょっと、予言者についてあれこれ調べていたんですがね。予言者っつーのは、最終的に龍なるんだそうですよ」

「なんだそれ」

「あいつらフードがぶってんでしょ。で、大抵顔はみえなくて。それっていうのは、預言者を続けてるとこう、額のところから角が出て来るからだそうです」

「そしていつか、龍に?」

「ふーん。だからあんまり同じ予言者って見ないのかな」

「さあ。俺達が『同じ』と認識できねえだけかもしんねえし」


 丁度、外を白い龍が飛んでいるのを見た。窓の外を、龍が飛んでいく。あれらはたいていの場合、渡り鳥のような扱いだ。


「白は、予言者として世界に貢献した証。ああやって飛び回って、世界を監視して、今度は自身が予言者に予言を下ろす役割を担うんだそうです」

「龍になったら終わりじゃないのね」

「どこまでも世界の為に、自分も、居場所も必要とせず、予言者として研鑽し続けた人間が到達する場所ってわけですね」

「じゃあ、黒は」

「能力を、私利私欲の為に使い続けた罰、みたいな感じですかね。専門家じゃねえんで、これ以上はわかりませんが。どっちにしてもとんでもねえや。あんなもんになっちまったら手も足も出ねえ」


 スィスが、眉間に皺を寄せて、難しい顔で呟く。


「世界のために生き抜く必要があるってことか」

「普通じゃないわ。そんなこと」


 全員が、竜日なら可能かもしれないと思っていた。穏やかに瞼を閉じ、静かに呼吸だけをしている竜日を見る。こういう人間が、そういう偉業を成し遂げるのだろう。


「先生、起きないな」

「予言者を探す、いえ、予言の国に行くべきだわ。なにか、もっと詳しいことがわかるかも」


 マールは抗うために立ち上がる。龍のことをもっと詳しく知るためには、予言者を捕まえた方が良い、というのは正論のようであるが、捕まえようと思って捕まる予言者が本物である可能性は低い。


「アンタ、予言者の国に入れるのか?」

「入れなくても、できることはあるはずでしょう」

「あの国ってすげー遠いだろ。三ヶ月だとギリギリたどり着くかどうかだぜ」

「それでも近くまで行けば、予言者の数は増えるでしょう」

「偽物の数もな」

「なら、なにか良い案があって!?」


 ジャカは考える。時間があれば、予言者の国に向かうのも良いだろう。しかし、三ヶ月以内に王都へ行かなければこの港はどのような目にあうかわかったものではない。

 ……手紙。いいや、読まれる保証がないし、サイトにとっては大した問題では無いだろう。彼にとってはどちらでも良い事だ。竜日が機能していないことをサイトに言うべきではない。意識があろうがなかろうが、関係なしで攫われる可能性が高い。


「俺は王都へ行くべきだと思う」


 竜日を最優先に思うなら、最初に解決するべき問題は、竜日を元に戻すことでは無い。

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