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「ボスを連れてってあげてください」


 トーリもカルを含む、構成員達が頭を下げる。ジャカが言わせた訳では無い。

 トーリが自分も行きたい気持ちを押さえながら言う。


「まさか港を潰される、ということはねえでしょ。海賊やら山賊相手なら領主様の兵隊もだいぶ整ってきてるし。俺以外も日々姐さんに鍛えられてますから」

「鍛えたっけ?」

「お前らそんなことさせてんのか」


 トーリがよくついて回っていたのは知っていたけれど。

 サヒ市へ向かう山道でそんな話をしていると、通りかかった馬車から子供が降りてきた。

 浅黒い肌にはツヤがあり、髪をほんの少量後ろでまとめている。大きく手を振り、真っ直ぐ竜日の傍に来た。


「先生!」

「あれ、スィス。――顔色いいね」

「ちょうど港に行くって一団があったから遊びに来た! 三か月くらいこっちで雑用とかさせて貰えってアンジュにも許可貰ってんだ!」

「じゃあ、スィスも一緒に――」


 竜日が不自然に言葉を切った。

 言葉を切っただけではなく、呼吸や身体の動きの一切を停止させる。

 竜日はばっと顔を上げた。ジャカはすぐに同じ方向を見る。スィス、マールと続き、最後には、全員がそれに釘付けになった。

 空から向かってくる。黒い色の。大きく長細い。


「あれは、龍?」


 月のはじめに見る白いものは鱗が光を反射してきらきらしている。しかしあれは、まるで、龍の形に切り取った闇をそこに貼り付けているようだった。空に穴があいているようにさえ見える。身体をうねらせながらこちらへ向かって来る。


「でも、見たことがないわ。黒い龍だなんて」

「あ、先生!」


 スィスが声を上げるまで、竜日が動いていることに気が付かなかった。

 竜日は近くの民家に登っている。登りながらも龍から目を離さず、その動向を観察していた。

 数秒の対峙でなにかを察したのか、そのまま町の端、山側へと走り出す。


「リューカさん!」


 走り出した竜日を追うようにジャカも走る。走れば走る程離されていった。ジャカの上を突風が吹く。黒い龍はリューカに真っ直ぐ向かっており、竜日が龍の鼻先を受け止めるようにぶつかった。そのまま、足が浮き、龍の先端に引っかかって。


「リューカさん!」

「ジャカさん、――――!」


 空中に投げ出された。身体は森の中に落ちて、龍は興味を失くしたようにそのまま飛び去って行った。

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