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 マールを行かせたのは嫌がらせである。竜日へではなく、ジャカへの嫌がらせだ。今頃、最人が味わったあの焦燥と憎悪と戦っていることだろう。


「さてと、今日はお前がモモカを本気で殺そうとした時の話を聞かせてくれるんだったな」

「ええ」


 第三王子の暮らす城は王都の東側にある。その一室に最人は自ら囚われていた。囚われていると言っても、ただ監禁されているだけで、必要なものは全て揃っている。その部屋に、時々こうして、第三王子のパディスが遊びに来る。口元は常につり上がっていて、護衛など、近くにいるのは全て女性であった。甘く粘つくような声が特徴的で、王子達の中で一番美しいと評判であった。


「リューカがあまりにもモモカを特別扱いするのが耐えられなくなったんだったな。どういう手段を取ったんだ」

「竜日の父を雇いました」

「なるほど。一番可能性がありそうなところだな。化け物には化け物をぶつける、と。しかしよく依頼を受けたものだ。実の娘と戦うことになるわけだろう?」


 竜日の父の道場は、竜日とそれ以外に明確な差があった。竜日は毎晩父親と立ち会っていたらしい。勝ったことは一度もない、と言ってたが。


「竜日は、父親相手には本気を出せませんでしたから」

「ハハハハ! 親友を守る為であれば親相手でも本気でかかるだろうというわけか。そして父親は本気で戦う娘と戦いたかったと」

「竜日の父は桃香に真正面から会いに行って、襲撃の時間を告げたんです。桃香はギリギリまで悩んで、それでも結局、竜日に助けてほしいと頼んだ」

「リューカが勝ったことは、お前の思惑通りか?」

「いいえ。僕はどちらでも良かった。竜日が負けたら、当然桃香の命はない。竜日が勝つということはどういうことかと言うと。――桃香が、竜日に父親を倒してくれ、と。そう頼む、ということなんです」


 パディスは葡萄酒を飲みながらにやにやと笑っている。


「娘に負けた父親はその次の日には毒をあおって死にました。竜日は自分が殺したと思っているけれど、もっと罪悪感を感じるのは桃香なんです。桃香は自分こそが竜日を天涯孤独にしたと思っている。この重圧に耐えられないだろうと思ったのですが」

「当てが外れてずっと生きていたわけか。そして、奥の手もなくなってしまった」

「はい」

「なぜ、モモカは耐えられたのだろうか?」

「桃香にとっても、一番大切なものが竜日になったから、ですね。自分が死んだら、僕が竜日と一緒に生きようとすることはわかっていたでしょう。竜日がきっとそれを拒まないことも。僕にとってはそれが一番良いことです。けれど、竜日にとって僕は、ただの友達でしたから。もし、竜日も僕を選んでくれたなら、桃香はそれを許したはずです。そういう日は、今日まできていないわけですが」

「今、モモカは生きていると思うか?」

「どうでしょうか。僕達に、向こうの世界のことを知る術はありませんから」

「もし自在に行き来できるようになったら、行ってみたいものだ」

「こちらと大して変わりませんよ」

「クルーザーだったか。あの技術の解明と量産が進めば世界を手に入れることも夢ではなくなるだろうな」

「僕にできることがあれば協力します。今度こそ、手段を選んではいられませんから」

「ふふ。女一人にそこまでになるというのは、どういう気持ちなのかな」

「最悪です。人生がぐちゃぐちゃになる」


 パディスは大きく口を開けて笑っていた。

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