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 頬に涙が伝う感触で目が覚めた。

 ベッドから起き上がると服を着替える。どれだけ食べても、自分の骨格以上に肉がつくことはない。棒か、針金のような身体を隠し、シルエットだけでも大きく見せる為に、サイズの大きな服を着る。髪は、昔は短く、というか、適当にハサミで切っていたのだが、それを話すと桃香が卒倒した。強さが必要なのはわかるが髪だけは伸ばしたらどうか。と提案され、それに従った為に髪だけは長い。

 顔を洗っていつものようにジョギングに行く。港で漁を手伝うこともあるが、今日はロミクリ村で適当な民家の朝食に混ぜて貰い、木材を運んだりという力仕事を手伝った。ぐるりと回ってチバン港に戻ると、大体昼前になっている。


「リューカちゃん。今日も元気ねえ」

「うん。元気」

「ジャカとは仲良くやってんのかい」

「うん」

「もしかして今暇かね? ちょっと頼まれて欲しいんじゃが」

「いいよ。買い物?」


 スムーズに家に戻り、世界について勉強していることもあるが、そういう日は稀である。大抵は様々な住民に捕まったり、自分から手伝いにいったりして、結局夜まで帰ってこない。ただこの日は、昼過ぎには事務所に戻った。

 構成員は竜日の顔を見ると「姐さん。お疲れ様です。腹減ってませんか」と大抵空腹度合いを聞いてくる。


「大丈夫。なにか手伝うことある?」

「とんでもねえ。よければボスに会ってってください。上にいますんで」

「わかった」


 二階への階段を数段あがったところだ。

 事務所の扉が勢いよく開けられた。


「あーら、相変わらず寂れた事務所ですこと!」


 くたびれた道場ね、と言われた声と重なる。顔は似ているようで似ていないが、雰囲気は同じだ。真っ赤な派手なドレス着て、事務所に入ってきた女の子は睨むように竜日を見た。


「あなたがリューカさんね! 近くで見るとより貧相だわ!」


 立派なレディには見えない、と、自身と対比させるように言っていた。「なんなんだあんた!」勢いに気圧されながらも、近くの構成員が彼女に詰め寄った。彼女は見向きもせずに竜日に近寄る。竜日はゆっくり階段を降りて、真正面に立った。竜日の方が頭一つ分身長が高い。


「わたくし、マール・マタリと申します」

「私、竜日伊瀬」

「知っているわよ、闘技場で見ていたもの」


 鋭い瞳はよく似ている。しかし、彼女の方が輪郭が柔らかく、幼い印象だ。実際、竜日よりも年下なのだろう。竜日はぽかんと、口を開けてマールを見つめている。マールもまた、竜日の頭のてっぺんから足元まで見て、それから言う。


「アレーンの物好きにも困ったものね」


 竜日は思わず笑ってしまった。「っ」声はあげなかったけれど、顔は笑っている。組員達と、マールが、怪訝な顔をする。


「うん」

「何故、笑っているの?」

「ごめん、マールちゃんが知り合いに似てたから」


 組員はそれぞれ顔を見合わせて、誰かジャカを呼んでくるようにと上を指差している。竜日が落ち着き払って笑っているから、事態は深刻ではないのだろう、と判断した。

 マールは顔を真っ赤にして叫ぶ。


「マール様よ! 貧相な上失礼だなんて一体どこに取り柄があるの?」

「取り柄は喧嘩が強いくらいしかないけど、ふふ」

「バカにしていらっしゃる!?」

「んふふ、違う」

「もういいわ! 本題に入らせて頂きます!」


 はじめて会うはずだが、竜日はマールを適当な席に案内して座らせた。組員の一人がそうっと階段を上がる。別の組員が「大丈夫ですか」と聞くものの、竜日は「大丈夫」と笑うばかりだ。


「マールちゃん紅茶飲む?」

「様! お土産に持って来たものがあるからそれを淹れてくださいます!?」

「うん」

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