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 カルや、他の組員が数人、遠巻きにこちらを見ていることに気付いていた。

 ジャカは組員の為の昼食を作りながら舌打ちをする。

 近くにいる組員が囁き合い、こちらの様子を伺っていた。内容までは聞こえないが、だいたいこんなところだろう。


「ボスの機嫌が悪すぎる」

「姐さんがいねえしまあ、それでもわかりやすいだけまだマシっつーか」

「それでも飯は作ってくれんだよな」

「姐さんよく食うしよ、いつ帰ってきてもいいようにって健気なアレだろ」

「昨日も随分遅くまで待ってたよな」

「最近よく外でてふらふらしてんのそう言うことか!?」


 大皿に山盛りにした炒飯をどん、とテーブルの真ん中に置いた。


「おら食えお前ら」

「へい……」


 自分の分だけは別のさらに取り分けてスプーンで口に運ぶ。わざわざ領主邸から竜日に会いに来た最人の気持ちは痛い程わかる。健在であることはわかっている。どこにいても竜日は竜日であろう。こういう気持ちには波がある。今日はやけにざわついていた。


「早く帰ってこねえかな」


 ジャカが呟くと、組員達は誰か迎えに行った方がいいのでは、という相談をはじめた。

 その時だった。


「ただいま戻りましたー!」


 トーリの声が事務所に響く。三階建ての事務所の一番上まで抜ける大声である。上階にいる連中もどたばたと降りて来る音がした。トーリは出入口の扉を抑える。竜日がひょこりと顔をだした。


「リューカさん!」


 ジャカが飛びつくように正面に走り込む。他の組員もほっとして、また、闘技場での話を聞こうと寄って来る。


「ただいま」

「おかえりなさい……よかった……帰って来ねえんじゃねえかと……」

「なんで?」


 竜日は驚いたように目を丸くしている。ジャカは竜日の肩を掴んで存在を確かめていた。竜日はいつも通りだが、トーリはやや鍛えられたようだ。顔や腕に切り傷ができているが、務めを果たして胸を張っていた。足を引っ張ってはいないようで、しっかり竜日に引っ張り上げられている。


「ボス、ちょっと聞いて下さいよ」

「お前は炒飯でも食ってろ。今からリューカさんから聞くからよ」

「姐さん、ダンガの大親分と知り合いになってきましたよ。そんで、その右腕のロアを一発で殴り飛ばして、闘技場では、つーかサヒ市でも超人気で」

「え」


 ダンガ。ダンガ一家。王都に本拠地を持つ、裏社会の人間なら知らないものはいない名前である。そしてロアと言えば、この国で一番強い人間は誰か、という話題にまず登場する、最強と名高い。


「マジか!?」

「さすが姐さんだぜ!」


 事務所はいまだかつてないくらいに湧いている。


「そりゃあもうファンを大量に作ってですねえ……! 飲食店を営業停止に持ち込んだりとか!」

「そんなことしてないよ。たぶん」


 竜日はしかし、自分ではなくダンガが尊敬されていると思ったのか、皆もまたダンガに会いたがっていると思ったのか。軽い調子で言う。


「ダンガさん、今度近くまで来たら遊びに来るって」

「ええええ」


 構成員の間に動揺と、少しの不安が広がる。全員竜日のことは尊敬しているが、腹の底から喜んでいいものかわからない。それって、港を潰しに来るって意味で言われたのでは。そんな疑問がじわじわと湧く。トーリにもそのあたりの細かいニュアンスが拾えるかどうか謎であった。


 ジャカはゆっくり手を上げた。


「すみません、全部説明してもらえます?」

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