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 ダンガとロアは、アンジュと竜日に頭を下げた。チバン港へ帰る馬車に乗る直前だ。


「うちのガキ共が悪かった」

「私は暴れてただけでなんにもしてないよ」


 ロアは始終俯いているが、ダンガは地下で見た姿とは別人のように朗らかに笑っている。


「しばらくは、闘技場の運営には俺の直属の部下が入る。あいつらにはしばらく監視もつけて、叩き直してやることにしたよ。間違ってもアンジュやその家族に危害を加えることはねえから安心してくれ」

「よかった。ありがとう」


 アンジュもダンガも、複雑そうな顔で笑う。竜日には意味が通じていない気がしてならない。一番身体を張って危険な立ち位置にいたはずなのだが、そんな様子は一切ない。落ちたハンカチを拾って渡した、とか、その程度の親切であるような振舞だ。


「アンジュは、ロアが拾って来てよ。武術なんかも教えたんだ。本当はウチの方でだって働けるが、ガキ共がこの町にいるからな。ここで働きてえってんで、それなりに稼げる役目をやってたわけだ。それを雑に扱うたあ、どういうことなんだか。恥ずかしいったらねえや」

「すみません、オレがもっと上手くやれれば」

「お前はなにも悪くねえよ。良い出会いがあってよかったぜ」

「はい」


 ダンガが竜日に改めて向き直る。


「リューカさんよ。ここに手紙をくれりゃあ俺に直で届くようになってる。なんか困ったことがあれば是非声をかけてくれや。いや、困ったことなんかなくても、もし今いる、ビレイ組かい。そこが嫌になったらうちの組に来てくんな」

「……私の使い道なんて、喧嘩くらいしかないけど」

「本気で言ってんのか?」

「今回も、私は人を殴り飛ばしてただけだよ。みんながまとめてくれなきゃ、こんなにうまくはいかなかった」


 アンジュとロア、ダンガは顔を見合わせた。やはり、なにも伝わっていないように思うし、自分がやったことをあまり理解できていないように感じる。肩をすくめて、ダンガは言う。


「まあ、仲間の存在は有難い、か」

「うん」

「それにしたって強すぎたがな。どこで修行したんだい。出身は?」

「えーっと」


 もしも出身の話になった時。ジャカと設定を考えたと思ったがなんだったか。考えていると、馬車の方からスィスが声をあげた。


「せんせーい! もう馬車出すってさ!」

「今行く! ――すみません。また」

「おう。最後にひとついいか」

「はい」

「どうして、偽名を名乗り通さなかった?」


 モモと名乗って選手をしていた。連れが一人いること以外に弱味はないように思われた。本当の名前を言う必要はなかったはずだ。「ああ」竜日はさらりと答えを投げる。


「あなたは大丈夫だと思ったから」

「根拠は?」

「大丈夫だと思ったんです」


 きっと話し合いはうまくいく。元々、ダンガ一家の内誰かを引っ張り出せれば成功だった。あの後、仮に竜日が失敗していたとしても、アンジュがロア、もしくはダンガと話をする機会はあっただろう。ダンガは目を丸くして、ロアとアンジュは苦笑していた。


「わはははは! あんたたぶん、予言者の才能があるな!」


 馬車に乗り込むと、窓の外に皆が並ぶ。ロアとは相変わらず目が合わないが、ダンガが言う。


「近くに行ったら事務所に寄らせてくれるかい」

「いつでもどうぞ」

「ありがとう、先生」

「本当に助かった。闘技場にはたまに来てくれ。モモは人気ファイターになってしまったから。来てくれたら盛り上がる」

「うん。また来る」

「それから、」


 スィスがアンジュを見上げる目は潤んでいた。アンジュもまた涙を堪えるようにして笑う。


「ありがとう。久しぶりに、戦うことが楽しかった。もっと強くなろうと思えたよ」

「うん。よかった」

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