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ジャカが、事務所で新聞を読んで笑い転げている。カルは、なんとなく理由を察しているけれど、質問してみた。
「なにか面白いことが?」
「これだよ見てみな。絶対にリューカさんだ」
カルは示された記事を読んでみる。あまり大きな記事ではないが、見出しはこうだ。『サヒ市に新しい最強闘士現る』年齢不詳、性別不詳の『モモ』選手が、長年のチャンピオンであった『アンジュ』選手を相手に連勝を重ねている。稼いだファイトマネーは毎日町の各飯店にて消費されている。しかし、アンジュ選手も毎回接戦を続けており、モモ選手に引っ張られる形で動きもよくなっている。アンジュ選手が王座を取り返す日も近いのではと改めて注目を集めていた。アンジュが復活するか、モモが蹂躙し続けるのか。サヒ市闘技場は大変な賑わいを見せている。らしい。
「俺も見てえなあ」
「俺も見たいですけど」
「あ、ジャカさんよ、これリューカさんのことだろ!? 俺明日見に行こうかなあ」
「え、ず、ずるくねえか。俺はこっちで留守番だってのに」
「サイン貰ってきてやるよ」
「それはマジで欲しい」
ジャカはちらちらと山の方を見ていて、今にも飛び出して行きかねない様子だった。
「駄目ですよ。まだジャカさんがいなくても大丈夫ってほどにはなってないんだから」
「行きてえなあ」
「聞いてますか」
最人は宣言通り、港の治安維持に尽力しているようである。デュオやドッグを港で見かけることもあるし、また、解散状態であった隊を編成し直しているそうだ。毎度「あまり度が過ぎた商売するなよ」と釘を刺されるが、ビレイ組は元々違法なものを取引していたり、仲介していたりということはしていない。
「冗談はさておき、きっとこのアンジュってのはトロー組さんにいいように使われてたんだろうな。なんか弱味があるとかでよ。そこにこの、リューカさんがドーン! つってな。俺のリューカさんが!」
「サイトさんが向かったのに、自由にさせているんでしょうか」
「自由にさせてそうな感じだな。いや、どうかな。もしかしたらこの新聞の記事ってのは、サイトくんが仕向けて書かせた可能性はありそうだぜ」
「……さっき、おもいっきり喜んでましたけど大丈夫ですか」
「それはそれとして、活躍の様子は嬉しい」
「だとしたら、一体何故?」
「そうだなあ。王子様の耳に届けばいいな、って感じじゃねえかな。たぶんだけども、リューカさんは王子様とコネ作るって目的は忘れてるんだわ。サイトくんもリューカさんの様子みてそんな気がして、自分がまず王子様に取り入ろうって動きかね」
「え、姐さん忘れて、ていうかトーリ」
「トーリも忘れてるに決まってんだろ。だからあいつを行かせたってのはある。変に王子様がどうこう言っちまうと、リューカさんは自分の思った通りに動けなくなっちまうからさ」
「そ、れは、いいんですか?」
「まあ、忘れてることに気付いたら「ごめん、忘れてた」とは言うだろうが、リューカさんはたぶん、予言者の才能もある。きっとそうだと思ったことはそうだしよ。骨董品屋連れてったら一番値打ちのあるもん指差して『これなに?』って聞くんだ。つまり、リューカさんがいいなと思って動くことは、いいことなんだと俺は思う」
「なら、別に、なんていうかその」
「俺達はいらねーんじゃねえかって?」
「そうなりませんか? だってどれだけ考えたって、予見、しているのなら」
「それはその通りだ。リューカさんは一人でなんとでもなる。が、それはあくまで、リューカさん一人がやるべきことをわかってる状態だ。リューカさんは予言者の才能はあるかもしれねえが予言者じゃねえ。予言を通して他の人間をまとめることはできない。結果の最大化は見込めねえ」
「リューカさんの予感を、補強する必要がある……?」
「そう。あとは、リューカさんの予感を信じる必要がある。しかも、腹の底からさ」
「どういうことですか」
「言ったろ。リューカさんは予言者じゃない。自分の考えたことが正しいかどうかってのは常に疑問なわけだ。あとは、思いついても実際にできるかどうかはわからない。具体的な方法がわからなくて悩んでいることもある。まあ、大抵の場合考えるより先に動いてるんだけどよ。その後な。このあとどうしたらいいかって一人で考え込んでるわけだ」
ジャカは楽し気に新聞記事を眺めている。
「そういう時に、俺は言うのさ。『大丈夫。なんとかなる』ってよ。リューカさんはじっとこっちを見て、ゆっくり頷くんだ。俺はその瞬間がマジで大好きでな。俺みたいな人間の言葉を力に変えてくれる。――言うだろ。予言は、信じた時にはじめて効力を発揮するってよ。まあ、リューカさんのは予言とも違うけどな。予言ってのはなんつーか、多くの場合、最悪の事態を避ける為の方法だが、リューカさんの予言は望む結果を得る為の方法で。そこにどうして差ができるのかはわからねえが、リューカさんすげえということで俺は納得してる」
「……ってことは、今回の旅は、予言を補強する人間がいなかったのでは?」
「そんなもん。リューカさんの手にかかれば現地でなんとでもならあ」
「その理屈で行くと、やっぱり俺達はいらないってことに……」
「一緒にすんじゃねえや」
「え」
「俺はリューカさんと約束してんだ」
ジャカは、竜日と最人の身の回りのことをトーリとカルに命じた。その時に、言った。「リューカさんとは恋人っつーことになったしそのうちに結婚すっから、そのつもりでな」冗談かとも思ったが、リューカに聞いたら本当に恋人なのだと答えた。
「リューカさんの言うことは、全部信じる」
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