31
トーリとカルは驚いていた。
最初はその強さに。次に、あまりにも世界のことを知らない無垢さに。最後に、ジャカが見たことがないくらい、よく笑っていることに。
トーリは竜日と、カルは最人と行動を共にすることが多い。そして大抵、夜に一度、ジャカにその様子を報告する。
「今日は姐さん、朝早くに起きて、漁についてってました。船酔いまったくしねえで、平地を歩くみてえに動くから、ミドの野郎舌巻いてましたよ」
「ああ。だから、魚いっぱい貰ってきてたのか。あの人」
喉の奥で楽しそうに笑う。
今までだって笑ったり騒いだりすることはあったが、種類が違った。結果、今までのは本当の意味での笑顔ではなかったのだと気付く。
「港全部使ってガキ共とかくれんぼやってた時には負けるか?」
鬼は竜日で、最終的に全員を見つけていた。戦利品として缶に詰められた駄菓子は、後からトーリとカルが解説した。蛇が脱皮した皮でさえ楽しげに眺めるので、竜日が自身の妹のように感じられることさえある。
「ああそうだ、頼みたいことがあったんだった」
くつくつと楽しそうに笑うジャカは、思い出したかのように言う。事務所の、一番上の部屋で、一番良い椅子に座っている。
「トーリ。リューカさんとサヒ市行ってくれるかい」
「サヒ市ですか」
「ああ。闘技場で王子様とコネを作ろうかと思ってよ」
「なんすかその夢みてーな話」
「ボス、俺は留守番ですか」
「俺も留守番だからそんな顔すんじゃねえや。――な、見たいだろ。リューカさんがもっと活躍するところをよ」
二人、竜日とジャカはなにか共通の目的があるようだった。詳しくは教えて貰えていないが、不安に思うことはなかった。
ジャカがそうしているように、ただ、竜日を信じておけばいい。
「見たいっす」
「だろ?」
――竜日は、歓声を浴びていた。
つけているプレートはたった五戦で『002』である。自分よりランキングが上の選手に勝った場合、プレートは交換だ。
「すげー……!」
スィスはぽかんと口を開けていた。トーリは代わりに得意気にしておく。
「だろ?」
周りの奴らがアンジュコールをはじめるが、運営側が許さなかった。竜日はプレートと、賞金を貰って帰ってくる。
「めちゃくちゃ稼いでしまったね」
貰ってきた札束を適当に二分割してトーリとスィスに渡した。「えっなんで!?」スィスは言うが、竜日は答えず、さっさと歩いていく。今日はもう戦えないとなれば、用はならしい。
「うーん。あの人と喋ってみたいと思ったのに」
あの人。『001』番の男。トーリは竜日の肩を掴んでゆさぶった。
「浮気っすか……!? ボスというものがありながら!?」
「違う」
「聞いてるのかよ!? なあこれ!!」
「この国じゃ浮気は最悪終身刑すよ!」
「違うって」
「おいってば!」
「それは看過できねえっす!!」
「トーリは意外と難しい言葉を知ってるね……」
足元で騒ぐスィスは、竜日に頭を撫でられると静かになった。
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