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闘技場には、四〇〇人くらいは収容できそうなスペースがあった。思いの外規模は大きくなく、ライブハウスくらいスペースに人が押し込まれている。真ん中に円形のステージがあるが、やや高い台になっているだけの簡単なセットだ。
その周りを観客と、スタッフが回っていて、酒やツマミを売ったり、賭け金の回収をしている。観客はどちらが勝つかを賭けており、選手は、戦う前に自身が持っている金をベットし、勝利した場合負けた相手がベットしていた金を得る。
長くても一試合は二十分程度。
時間切れで終了した試合は無効となり、収支のプラスマイナスはゼロだ。
一応、選手にもランク付けがされており、番号の札を胸に付けられている、それがそのまま現在の順位を示していた。
『001』と書かれた男が登場する。
会場は割れんばかりに湧いていて、チャンピオンは淡々と勝利していた。
「うーん」
「あれが、この闘技場。というか、この町で一番強い男」
『アンジュだーー!! 本日もアンジュの鮮やかな勝利!! やはり最強はこの男ーー!!』
実況の声と、周りの歓声は、届いていない様子だった。傷だらけの身体に、肩くらいまである髪が張り付いている。
「さあ、次にアンジュと闘うのはどいつだ!?」
竜日はひょいとリングの上を指さした。
「出よう」
「今日は観るだけじゃねえんすか?」
「うん。出よう。あの人と戦えるかな」
「今日の今日はどうだろう」
スィスに聞くと、スィスはちらりと舞台の上を見て、苦しげに目を逸らした。
「たぶん、勝ち続ければその内には」
「よし。――すみませーん。選手になりたいんですけど」
「兄ちゃん随分細いが大丈夫かい?」
「大丈夫大丈夫。受付どこ?」
トーリとスィスは選手になるために中央へ向かうリューカを眺めていた。
「あっ!?」
簡単なボディチェックを平気な顔でパスすると、『250』の札を貰っている。
「ああもうあの人は……」
「女の人だろ?」
「そうなんだけどな。なんつーか、ああいう、頓着しねーところがあってだな」
スィスは紙袋を抱えている。中には昼に手に入れた食料が入っていて、間違っても盗まれないようにしっかりと持つ。
「お前はもう帰ってもいいぜ」
「俺の雇い主はあんたじゃねーし」
「なんだとコノヤロウ」
「それに、もうちょっと見たい」
「おう。その気持ちはわかるわ」
通過儀礼、とでも言いたそうに、『50』の札を持った相手を用意される。竜日はまたトーリの財布を抜き取っていて、財布の中身をひっくりかえして賭け金を示した。会場が、異様な気配に気が付き始めてざわついた。
「心配じゃねーの」
「心配? 俺があの人を? おこがましいぜ、そんなもん」
トーリは目をキラキラとさせて笑う。
「見てな。あの人はすげーんだ」
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