28

「リューカ姐さん、つきましたよ」


 トーリの声で目が覚めた。

 サヒ市へは、馬車を使えば半日ほどで到着する。ルートは、荷馬車に同上させてもらうのが一般的であった。ロミクリ村からサヒ市へ、アクセサリーを売りに行く業者の馬車に乗せてもらった。通常であればいくらか運賃を支払うが、リューカは港から村、村から山道への治安維持に貢献しているとしてタダであった。

 荷台の空きスペースで膝を曲げて座って眠っていた。


「うん」


 のろのろと起き上がり目を擦る。山と山の間の盆地に、その町はあった。


「チバン港と同じくらいの規模、かな」

「そうっすね。けど、町の下掘って闘技場にしてるらしいんで、それ含めたちょっとでかいかもしんないっすね」

「ふうん。――あ、サワさん、ありがとう」


 竜日はロミクリ村の職人に手を振って馬車を降りる。身体を伸ばして、ついでに欠伸をしていた。


「大体の町の作りは、当たり前かもしれませんが、チバン港と一緒っす。こう、町の真ん中をメインの通りがあって、そこに大体の店だとか、宿とかがあって。見えますか、右側のちょっと大きめの塀があるでしょ。あれがマタリ商会。更に奥には領主邸。商会とこの町の領主様は親戚同士だそうですよ」

「へえー」


 建物の構造や、色などもチバン港とあまり変わらない。赤茶色の煉瓦作りの民家。平地である為全体像が見えにくい。

 民家に登ったら驚かせるだろうしな。竜日がフラフラしていると、ついて行っているトーリに小さな子供がぶつかった。子供はぼろぼろのマントを頭から被って顔を隠している。


「っと、なんだ今の」


 竜日には、子供の手がトーリのポケットに伸びて、財布を引き抜くところが見えていた。

 走り去る直前、足をひっかけて転ばせる。大きくバランスを崩した細く小さな体。抱え、手から零れた財布を掴んだ。


「っ!」

「……港ではこういうのなかったな」

「そういうの、ウチで保護してんで!」

「やるねえ」


 竜日は財布をトーリに返すと、そのまま近くの路地に入った。小脇に抱えられた子供は途端に暴れ出す。


「離せ! 人さらい!」

「おーおー、もっと人が多いところで叫んでりゃ、誰か助けてくれたかもな。ボウズ」

「あと、スリはもう少しわからないようにやったほうがいいよ」


 竜日の手には、トーリの財布が戻っている。トーリと、竜日に掴まれている子供は目を丸くしていた。


「えっ! あれ!?」


 子供を地面におろして、正面にしゃがみこんだ。


「町を案内して欲しい。そうしたらいくらかお礼も出すよ」

「姐さん! こんなガキに頼まなくても……!」

「そこのお兄ちゃんよりは危機感がありそうだ」

「姐さん!!」


 肌は少し暗く、顔の凹凸がはっきりしていて、直線的で、全体にエキゾチックな印象だ。金色の目だけが磨かれたように輝いている。


「案内って、どこに」


 竜日は立ち上がる前に、子供の体についた砂を落とした。


「闘技場」

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