27
最人は言うまでもなかったが、桃香もまた、名家のお嬢様であり、よく、その身柄が狙われていた。
二人を『殺す』ことを目的としている者はあまり現れなかった。日によって、最人だったり、桃香だったり、両方だったり。竜日は二人に降りかかる危険なものを全て、拳で排除していた。
あまりにも何度もあるものだから、両家で実行犯の身辺を洗い出したりしていたけれど、結局いつも、指示した人間をに辿り着くことはできなかった。
ある時、桃香に殺害予告が届いたことがあった。その男は大変に自分に自信があり、彼女の最強の友人と戦いたがって、わざわざ襲撃の日付と時間を予告をした。
闘いが終わったあと、腰が抜けて歩けない桃香を背負って歩く。
竜日がぼんやりと月を見ながら歩いていると、桃香が言う。
「竜日」
この時は中学を卒業する直前であった。この頃には、桃香と竜日は親友だった。桃香は、竜日の首に腕を巻きつけていた。
「竜日、私ね」
桃香を窮地から助けた後、普段は聞けない本音を話すことが多く、竜日はこの時間が好きであった。桃香が通っている学校のことであったり、将来のことであったり、家のことであったり。この日は。
「最人が好きなのよ。本当に、この世界の誰よりも尊敬していて、婚約者になれたことは人生で一番の幸運だと思っているわ」
「うん」
恋愛の話だった。
桃香と最人の婚約は親同士が定めたものだと聞いたが、桃香は、最人に恋をしていた。通っている学校が異なっていた為、学校での様子を写真に撮ったり、話をすると喜んでいた。
「竜日は、好き? 最人のこと」
好きではある。ただ、明らかに桃香とは違う気持ちだとわかっていた。かと言って、好きではない、とするのも違うように思えて、はっきりと答えられたことはない。
「わからない。難しいな」
「ふふ、竜日はずっとそんな感じかもね」
「そうかも」
「嘘よ。ごめんね。そんなことない。そんなことないわ。竜日にも絶対、大好きな人ができるから」
「そうかな?」
「そうよ。大丈夫。それでね、竜日、もし、自信を持って好きだって言える人ができたら。絶対にこの人と一緒にいたいって人ができたら、誰にも遠慮なんかしたら駄目よ」
「誰にも?」
「そう。誰にも。約束して」
背負われた状態で、桃香は右手を竜日の前に出して、小指を立てた。竜日は片手で桃香を支えて、自分の小指をひっかける。
「わかった。約束する」
「それで、私に一番に教えなさい」
「うん」
桃香とは、実に色んな勝負をした。弓道であったり、フェンシングだったこともある。テニスや卓球だったり、音楽や絵をかくこと。トランプ。料理。桃香は毎回本気で、竜日も、やったことがないことは講師をつけられ、基本を叩き込まれた後の勝負となるので必死だった。桃香が勝つこともあれば、竜日が勝つこともあり、桃香は本気で喜んだり悔しがったりしていて。竜日は勝負の結果というよりは、桃香と『全力で遊んでいる』という感覚がなによりも楽しかった。
「竜日、ねえ、竜日?」
返り血で汚れた服を見て、悲し気に言う。
「ああ、またこんなに汚れて」
桃香が竜日を抱きしめる。竜日に怪我はない。竜日は桃香に怪我がないことを確認している。
「ごめんね、竜日」
「大丈夫だよ。桃香ちゃん」
そんなに謝らなくてもいいのに、と竜日もまた桃香を抱き締めた。
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