18
気が付いたら、違う世界の海の上を漂っていた。
トーリとカルと出会い、海賊と戦い、ジャカを助けて、飛び去る龍を見て。
チバン港に着くまでに確信になった。
最人は帰りたくないからここで暮らすと言っているが、竜日としてはなにがなんでも帰って貰わなければならない。
しかし、今まで通り最人につきっきりではいられない。
「そういうわけで、困ってる」
今のところ、困ることしかできていない。一人なら、なんの不満もなくただ生きていくだけで良いと、割り切れたはずだ。
「どうして、俺に話してくれたんですか?」
「……ごめん。利用しようとしているように見える? いや、そもそも、もしかして、脅迫しているように聞こえる? なにか、証拠あったほうがいい?」
「疑ってるわけじゃないし、むしろ納得っつーか」
予言者から貰ったらしい紙切れをもう一度広げる。分厚い紙だが、柔らかくなっていて、端は欠けている箇所もある。
「――予言者ってなに? って聞くやつはね。この世界には居ないんです。あいつらはどの国にもいるし、予言者の資格のあるものしか入れない、予言者の国だってある。龍線について聞くやつもきっといないし、カルどころかトーリまで、全く食材の名称が出てこなかったと不思議がってたんですよ。だから、納得です」
そもそも違う世界から来たと考えれば、その全てに説明がつく。
「俺ね」
竜日の描かれた紙をまた四つに折って胸のポケットにしまった。
「俺は」
胸に置かれている手を握りこんでそのまま、どん、と叩いた。
「よし! リューカさんは素直で嘘がつけなくてあんまり込み入ったことが得意じゃないみたいだから、一つだけ。一つだけ条件を出しましょうか。この条件さえ飲んでくれるなら、この先俺はリューカさんが話すどんな荒唐無稽な言葉も信じましょう!」
「私にできることなら」
ジャカは低い姿勢のまま竜日に近寄り、真っ直ぐに竜日を見る。
「俺と結婚してください」
竜日はぽかんと口を開けて、差し出されている手のひらと、軽やかに笑うジャカの顔とを交互に見る。
「……そんなことでいいの?」
「そ、そんなことお!? 体も心も社会的な立場もこの先の未来も全部寄越せって要求ですけど!?」
「うん。それより聞きたいことがあって」
「それよりィ!?」
竜日はジャカの手のひらに自分の手を乗せた。竜日の手は女性にしてはごつごつとしているが、それでもジャカの手よりは細く小さい。
「本当に? 本当に私の言うことを、全部信じてくれるの?」
竜日が手を握るので、ジャカも竜日の手を握り返した。
「もちろん。男は二言を言わんもんです」
竜日はまた、ジャカの演奏が終わった時と同じように息をした。深く息を吐き出すと、自然と背筋が伸びていく。
「ありがとう。じゃあ今から恋人ということで」
「エッ?」
「こんなこと言うとジャカさんに悪いけど、正直都合が良い。最人を家に帰したい理由がひとつ増える」
最人と二人きりにならない理由にもなる。
「あとたぶん、私に恋人ができただとか、桃香ちゃんに話したらめちゃめちゃ喜ぶ」
クラッカーみたいに弾けていることが時々あった。特に楽しそうだったのは、竜日がわかりやすい悪漢をなぎ倒す時。いちばん愉快そうにしていた。
「よろしく。――私のことを上手く使ってほしい」
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