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 顔を上げると、二階建ての民家の前だった。隣に三階建てのやや大きな建物があり、その隣に寄り添うように立っている。その他たくさんある煉瓦の家で、変わっているところは玄関や窓に飾り気がないことくらいだろうか。


「じゃじゃーん。ここを好きに使ってください」


 ジャカは玄関扉を開けると、竜日を中に通した。外観は飾り気がなかったが、最低限の家具は揃っている。


「……本当に? いいの?」

「組の事務所も隣なんで、なにか困ったことがあれば言ってもらって」

「ふうん。見てもいい?」

「どうぞどうぞ!」


 一階、玄関から真っすぐ廊下が伸びていて、一番奥に階段が見える。手前はリビングダイニング、奥はバスルームのようだ。階段は途中で折れ曲がっていて、家の東側の端から端まで廊下が伸びている。


「二階は個室が三つあって、一つは倉庫みたいなもんなんで。奥の二つをそれぞれの部屋として使って下さい」


 個室は窓が開いていた。ベッドと、クローゼットだけ置かれている。奥の部屋も真ん中の部屋も大きさもおかれているものも同じだった。


「ここは?」

「そこはその、開かずの間っていうか」

「……倉庫?」


 竜日がドアノブに手をかけると、ドアノブは回るが扉が動かない。なにかがひっかかっているようだ。「あ、あの」何度かがちゃがちゃやっていると「別にそこ無理に開けなくても」ひっかかっていたものがずれて五センチほど開いた。ものが積み上げられ、溢れそうになっている。

 椅子や机、服も見えるし、棚みたいなものも詰められている。本や剣のようなもの。ベッドは完全に埋まっている。


「俺の私物をとりあえずぶち込んであるんすよね……」

「……ってことは、ジャカさんの家なんだ」

「俺はほとんど事務所で寝泊まりしてっから、使ってなくて……。なんとかここまで片付けたんで、あとはちょっと、また、ちょっとずつ……」

「言ってくれれば手伝ったのに」

「それは事務所にいた奴らに手伝わせたんで全然いいんですけど、ていうか救世主様に手伝わすわけにいかねえでやんす」


 隙間から手を突っ込んでものを退かし、どうにか人が出入りできるくらいに扉を開けた。埃が陽の光の中で舞っている。


「本当にこの部屋使わないの?」

「ええ。事務所にずっといますから」

「ふうん。こっちに居てくれた方が助かるけどな……」

「え?」


 手前のものを少し廊下に出して、扉が開くようにする。ジャカは竜日に名前を聞いた時のように身体を左右にくねらせて、意を決したように胸を張った。


「そ、そうですかい? 恩人であるリューカさんがそこまで言うなら無視はできやせんねえ!」

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