09
ジャカを捕らえていた海賊団は、この辺りの船乗りにかなり恐れられていたらしい。金品を差し出さなければ、船を沈められることなどざらにあったと言う。特に、このチバン港にはよく立ち寄り、港の人が被害に遭うこともあった。
それをジャカ率いるビレイ組がなんとか食い止めていて、アジト化には至っていなかったものの。その頼みのジャカが捕まり、この港はもうダメかと、そういうタイミングであったのだ、とトーリとカルは熱を込めて語った。
「そんなわけで、リューカさんが倒したのはとんでもねえヤツらだったんすよ」
「へえ」
トーリは髪を逆立てて、鼻息荒く話を続ける。カルと同じくらいの歳だろうか。体格が良く、大きな犬のような印象を受ける。
「いやあ、サイトくんの船から見てましたけどね! すげえのなんの! あいつらの声がぐちゃぐちゃうるさかったのに、一つずつ消えていくんすから! 後世に語り継いで神話にします!」
食堂の女主人が持ってきたのは、大きな鉄鍋に平たくご飯が敷き詰められ、野菜や海鮮類が一緒に炊かれた料理であった。
「これこれこれ! 美味いんすよ!」
「これなに?」
「いいから!」
鮮やかな黄緑色の葉に包んで竜日に渡した。葉は柔らかく炊き込みご飯の味を綺麗にまとめる。
「うん」
「うまいでしょ!」
「うまい」
「じゃあ次はこれ!」
また女主人が持ってきたものを、今度は机に置く前に奪ってきて切り分けた。長い包丁を通すと、さくさく音がする。パイだ。中は肉と、なにか白いものが見える。
「なにこれ」
「いいからいいから!」
竜日が手を伸ばすと、カルがトーリの頭を叩く。カルは線が細く、丸い頭をつるりと艶のある髪が覆っている。
「いってえななにすんだカルてめー!」
「すみません、リューカさん、好きなように食べてください」
「好きなように食べてるよ。ありがとう」
パイを一切れ食べ終えると、そわそわとしているカルに問う。
「カルのオススメは?」
カルはパッと顔を上げ、ひとつの皿を竜日の前に置いた。
「オレは、このあたりとか」
「貝だ」
巻貝が黒っぽい煮汁に付けられている。甘いような酸っぱいような匂いがしていた。
「そんなの食べるやつは人間じゃねえ!」
「都市の方じゃ高額で売れるの知らないのか」
「王都の連中はおかしいんだよ!」
竜日は、体を伸ばしたり縮めたりしながら料理を観察する。
「貴重なものなんだ?」
食材ばかりではなく、調味料も良いものを使っているようだ。雑みやえぐみが無く、どこにも引っかかることなく体に入っていく。
「いいの?」
トーリとカルは目を潤ませて、じっと竜日を見た。
「貴方が食べずに、誰が食べるんですか」
無自覚でいることを責めるような声音であった。竜日は考えて、二人の前に適当に皿を置いた。
「一緒に食べよう。正直、これだけあるとどれから食べたらいいんだかーーあ、これは? どうやって食べるもの?」
トーリとカルはまた元の調子で話し始める。
最人は一言も喋らず、ずっと考え込んでいた。
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