アイドルになった元彼
第23話
【SPIRE】が紗奈の賃貸屋敷に来て1日目
バタバタの引っ越し劇が幕を下ろし、紗奈はほぼ寝ていなかった。
それは、翠蓮社長から貰った【SPIRE】取扱説明書を一生懸命読んでいたからだ。
そして、紗奈の新しい仕事ネームが決まった。
広子おばあちゃんに命名された名はサクだ!
「紗奈、おはよー」
「おはよう」
パジャマのレンノスケ、キキ組が紗奈に声をかける。
「はい、おはようございます!
ちなみに、サクですから!」
「わー、今日は朝からパンにスクランブルエッグにハムに野菜にフルーツに豪華だねー」
リーダーであるアヤトは目を輝かせる。
「みなさんの朝食のメニュー表を翠蓮社長から頂きましたので…あと、タンパク質補給にプロテインです。
あ、ユーシさんは和食用意していますよー」
「紗奈さん、ありがとうございます」
「いえいえ!
いっぱい食べて下さいね!」
朝から笑顔で言った。
「へー、紗奈さん一人で作ったんですか?」
紗奈の背後から声がした。
後ろを振り向けば、すでに私服に着替えたスカイが笑顔で立っていた。
朝から髪型も整えていて、軽くファンデも塗っているような感じであった。
「ヒィッ!!なっ、何ですか!背後に立たないでください!」
「そんなにびっくりしないで下さいよ。
あっ、苺美味しそう」
スカイは苺を手に取ると、そのまま口に運ぶ。
紗奈は無意識にスカイの唇をじっと見つめてしまう。
いや、目を奪われてしまうのが自然の反応だ。
「んっ!美味しい♪
…紗奈さん、そんなに見つめて、どうしたんですか?」
「…え?
あっ、や、あれ?」
「…もしかして、苺が欲しいんですか?」
苺を手に持ち、スカイはイタズラな笑みを浮かべる。
「ぅう…違います!
スカイさん、あなたにはシリアルを用意してるので早く食べて下さい!」
「分かりました」
「…早く離れて下さい!」
「ふふっ、はいはい」
スカイは愉快な笑みを浮かべながら、紗奈から離れて、自分の椅子に座った。
紗奈の周りには、スカイの香水が残り香として漂っていた。
(…柔らかくて…優しい匂い…やっぱりスカイは…)
無意識に見つめてしまう。
だって、その香りは変わってなくて、私が近くで嗅いだ安心できる香りなんだよ。
「サクちゃん、ボーッとしてどうしたの?」
ミルクをとりに来たアヤトはキョトンとした顔で紗奈を見た。
「アヤトさん!
えーっと、みなさんよく食べるなーって見てました!」
焦ったように言えば、アヤトは紗奈から視線をずらして、コップにミルクを注ぐ。
「今日は新曲のボイトレにダンスレッスンがあるからね…よく食べないと1日保たないよ。
よく、理解しておいてね!」
「はっ、はい、理解しました。」
「やー、頼りになる管理人だなぁ」
くすくす笑いながらアヤトは席に戻った。
「…私、【SPIRE】のお世話係になっている…?」
やらされていることに疑問が湧いた。
しかし、これも広子おばあちゃんに言い渡された仕事だ。
やらなければ、今度ある【Rush】のライブに行けない。
「紗奈、食べ終わったから片付け宜しくねー」
1人で悶々としていたら、いつの間にか【SPIRE】のメンバー達の朝食が終わっていた。
「あっ、はい、もう直ぐマネージャーさんがみなさんを迎えに来ると思うので、準備しておいて下さい!」
「紗奈、ごちそーさん」
「ご馳走様」
レンノスケとキキは食器を放置して、身支度をするために部屋に戻った。
「また、夜よろしくお願いします」
「ごちそうさま、サクちゃん♪」
ユーシとアヤトは各々過ごすためにベランダに出で行った。
「紗奈!」
「えっ⁈」
急に名前を呼ばれたので、ビックリして目を見開く。
スカイの視線が嫌という程突き刺さる。
綺麗な澄んだ目で見てくる…
ドキドキする…
昨日あったことなんて忘れそうになる
「紗奈さん、これ、食べた食器です」
「あっ…ぁあ、ありがとうございます!」
一瞬、時が止まっていた。
“さん”づけをされて再び時が動き始める。
「…朝ごはん…美味しかったです。
また、お願いしますね」
笑顔で言ってくる。
ヤバい、泣きそう。
だって、あの頃の笑顔なんだもん…
優しくて安心できて…
涙を我慢して、スカイから視線を逸らす。
「ぇっ、ええ、夜も楽しみにしていて下さいね」
必死に取り繕って返事をした。
「じゃあ、また夜に…紗奈さん」
スカイはキッチンから去って行った。
「…っ…だめ、泣いたら…」
紗奈はキッチンの隅に隠れて、うずくまった…
全ては君を振り向かせるためにしたこと あいこ @aiharaaiko
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