終幕
自身の身体を見ると、ほとんど消えかけていることに気づいた。両腕はもうなくなっていて、透明な浸食が腕から肩、両足から腰までへと徐々に広がっていく。
「自身の行いに悔いて反省した以上、現世に留まる理由はない。とりあえずこれで成仏できるわね。あとは、向こうの世界でひたすら己を悔いなさい。これ以上ここに留まってもあなたができることはないのだわ」
僕は無言で彼女の言葉に頷いた。それが受け止めなくてはいけない現実だから。
「君は、どうして地縛霊の僕に関わろうと思ったんだ?」
「同級生から相談を受けたのだわ。塾からの帰り道に毎回同じ男性が走っては消えていく姿を何度も目撃して気味が悪いとね」
僕は死んだ後まで他の人間に迷惑をかけていたのか。
ハハッと乾いた笑い声が出た。こんな醜い人間がこの世界に存在したことに驚いた。
「あなたが犯した行為は当然許されざることよ。ただ、こう言ったら被害者の方たちに申し訳ないのだけれど、あなたを通して貴重な発見ができた。それについてはあなたに感謝するわ。ありがとう」
身体のほとんどが消えてしまった僕に、彼女は妖異に顔を歪ませて微笑む。
「死後、未練のある者たちは現世に留まり続けてしまう。彼らは想い入れの強いモノに囚われ執着する。それは悪霊に、いずれは怪異へと昇華していく。ただ、方法いかんによっては、あなたのように肥大化した自意識で幻想を創り出し、その閉じた世界に自分自身を閉じ込めることができる。行き着く先は怪異か成仏か。いずれにしても、苦しみながら生きるよりはずっと良い選択肢ね。目指す先が見えてきたのだわ」
誰に語るでもない、それは自分自身に向けた強い決意表明と言えるほど天を仰いで高らかに言い放つ。
「――死の境――くす―め―、―くの人間―死――導くこ―――、皆が幸――――る。苦しみのない世――――作るた――――」
顔の半分が消えてしまった僕は、途切れ途切れながらなんとか彼女の言葉を掬い取ることができた。そして彼女の放った言葉に、消えかけの頭が恐怖で凍りつく。
目の前に立つ少女は、当然ながら幽霊ではない。
ただ、間違いなく人間ではない。
彼女は、きっと人の皮を被った悪魔だ。
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