傷跡

 次の日も、朝起きるとやはり俺の身体には無数の傷が増えていた。そしてそれは、今までよりも長く深いものとなっており、着ていた白いTシャツが真っ赤に染め上げられていた。


 あれから俺たちは、全速力で走って自宅へ逃げ帰った。いや、全速力で逃げる俺に夕闇さんが慌てて追いかけるという表現が正しい。黒い木が視えなかった彼女にとっては何が何だか分からなかっただろう。


 帰りの電車の中で、深夜散歩の時に目にしたネズミの話を夕闇さんに話したら、夕闇さんは、少し考えてみると言って、それきり別れるまでほとんど喋らなかった。

 

 一番残念な事は、彼女が黒い木を視えないという事実だ。彼女は心霊系の専門家で当然視えるものだという期待があった分、失望が大きかった。

 

 そんな彼女は帰り際にサラッと言った。


『幽霊は視える。この瞳が全て捉えてくれる。捉えられなかったということは、少なくともあれは幽霊ではない何かということ』


 幽霊以外というと、河童やら天狗やら座敷童のような妖怪の類なのかと問うたが、彼女は考え込むように黙り込み、それから口を開くことはなかった。


 ちょっと嬉しいことが1つ、夕闇さんから連絡先を交換しようと提案され、俺は快諾した。今後のことについて考える上で連絡をいつでも取れるようにしたいとのことだった。この傷のおかげであんな綺麗な先輩と交友関係を築けるものなら安いものかと思ったが、今日できた新しい傷の痛みが己の馬鹿さ加減を数秒おきに暇なく思い出させてくれた。


 土曜日休みの今日は雨、今朝部内の連絡網で部活中止の連絡が入り、どうしたものかと暇を持て余していると、いつの間に友達追加されてたのか、メッセージアプリCODE上で、夕闇さんからメッセージがきた。


『おはようございます。昨日あれから対策を考えました。今日午後1時に鷹野君家近くにある、ホームセンター集合でよろしくお願いします』


 彼女の頼もしさに惚れ惚れしてしまいそうになるが、顔文字絵文字のない淡白な文章が脈のなさを物語っているようで肩を落とす。それに、何故ホームセンター……?

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