第70話
【2】
コントロールルームは、まだ殆どがルームスタッフで、出発時に比べると熱気もイマイチだった。
ルター事件の後だし、物理的にも精神的にもやむを得ないと言える。
ルーム内の人数もあまり増えないまま、10時過ぎスウィンからの一報が届いた。
「無事任務完了し、只今帰還途中です。
ワームホールから通信しています。
順調にいけば、明朝そちらへ到着予定」
スウィンは出発時の興奮など微塵も無い様子で、とても冷静だった。
「帰りは、ワームホール内は勿論、そちらへ到着するまで通信可能ですから、所々で連絡を入れます。
そちらからの連絡は、一応ワームホールを抜けてからお願いします。
込み入った話は、そちらへ着いてから。
キララ………元気か?
会うのが楽しみだ………」
スウィンはそれから、任務が如何にスムーズに進行したか、停泊した位置から見る宇宙空間がどれ程美しかったか等々を、キララに向かって話しかけるように穏やかな口調で語り続けた。
キララは涙しながらうっとり聞き入っている。
ソフィア始め他のスタッフ達も、切羽詰まった地球の未来に微かな光を見た気がして思わず涙ぐんだ。
「残り10秒でワームホールを抜けます。
7,6,5,4,3,2,1………
抜けました! 全て無事!成功です!」
スウィンは終始淡々としていた。
スタッフ達の盛り上がりも、スウィンのミッション成功に対しては勿論だがスウィンが今のセンター内の状況にとって絶対的に必要な存在であることを実感している
誰もが、現状打破の為にスウィンの帰還を待ちに待っているのだ。
まるでスウィンはその事を知っていたかのように落ち着いている。
「そちらからの通信もどうぞ! 可也時間差は有りますが、明朝までに多少のやり取りは出来るでしょう(笑)」
コントロールルームのスタッフは拍手と歓声を送信した。
キララはふと思った。
ーーーーーメカのネットワークと連携して、私の思いをスウィンに伝えられないだろうか?………ーーーーー
キララは目を閉じ、自らメカとの繋がりを意識して、ネットワークとの接続を積極的に試みた。
全てのメカがキララに集中するビジョンがリアルに心を満たす。
キララはスウィンに話しかけた。
ーーーーースウィン………私の声が聞こえる?
聞こえたら『星のきらめき』と言って………
そう、暗号よ。『星のきらめき』ーーーーー
その頃、体内メカもアンドロイドもコントロール機器も望遠鏡も、ネットワークに加わっている全てのメカがキララに集中していたことを誰も知らない。
メカと共存している宿主達は、その間意識を無くして稼動停止状態のアンドロイドのような抜け殻となっていた。
それに気づいた者も居ない。宿主本人でさえ。
ソフィアが当たり障りの無い報告をして、最後にキララが『待ってる』と載せてこちらからの通信を終えた。
それから3時間程経った頃、再びスウィンから通信が入った。
時間差から計算して、最初の通信がセンターに届いたすぐ後に送られたようだ。
初回とはうって変わって、とても興奮したスウィンの声が飛び込んできた。
「キララ!『星のきらめき』 分かるかい?『星のきらめき』…………」
キララは感動にうち震えて、天を見上げながら涙を流した。
そして何度も何度も頷いた。
スタッフ達は皆意味不明のままキョトンとしている。
「星のきらめきが本っ当に綺麗だ………
星のような君の声が聞きたいよ………」
スウィンは、上手く誤魔化した。
部屋全体が和やかな空気に満たされ、スタッフ全員の温かい視線をキララは感じていた。
キララは、再びスウィンへの話しかけにトライした。
『君の声が聞きたい……』……ただキララの声を聞きたいだけでは無く、スウィンは何か情報を知りたいと暗に伝えている。キララは直感的にそう感じたのだ。
再び地球上のメカがキララと宇宙の繋がりに集中した。
キララは『今度は少し長く話すので、最後まで届かないかもしれない』と前置きして、今センターで起きている事を手短に話した。
最後に『メカ達は私と繋がりを持った友達………仲間………
だから何とかしたい! 助けを求められてる。
人間も傷つけたく無い。
現段階ではまだスウィンと私とのこの状況をあまり口外すべきでは無いと思う。
だから宜しく』と加えた。
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