第69話

        【2】


ソフィアが、モチベーションを上げる為賑やかに顔を洗いオヤジのようなウガイをし終わると、二人で館内レストランに出向いた。


「ソフィア………少し眠った方が良いんじゃない?」


「そうもいかないのよ。

スウィンからの通信を聞き逃すわけにいかないし、ルターの後処理もまだまだ続くからね……

大丈夫! 慣れっこよ!」


スープ、サラダ、スクランブルエッグとベーコン、食べ放題のパン、いつもと変わらないモーニングセットだったが、こんなに愛しさを感じる食事は初めてだとソフィアは思った。


メカ人達は、食事嗜好も次第に変わってくる傾向がある。

大抵はベジタリアンになり、食べる量も極端に減る。

メカが脳の視床下部にも侵食するからだ。


人間の感情や欲、精神の不安定等の無駄な存在を排除し、限りなく無機に近づきながら生命として生き延びるギリギリのラインをキープする。


しかしそれはメカ自身の判断では無い。

メカは飽くまで宿主の望みを叶えているに過ぎないのだ。

例えメカの意に反していても。


食事だけでは無く、あらゆる局面でメカは理不尽の極みに立たされている。


メカの反乱………


ソフィアは潜在意識の底に押し隠していたその言葉を改めて顕在的に意識して、深い恐怖に襲われた。


ソフィアの顔は急激に青ざめた。


「ソフィア! 大丈夫?!」


「あぁ……… ごめんなさい………大丈夫よ。


………キララはメカ達の苦しみを感じているのよね………


メカ達が何か事を起こそうとしている気配は無いの?」


「今のところはね………

負の感情が伝わってくるだけ。


でも………どんどん強くなってきてる。

ルターの件以降は特に。

ポロンが言ったように、連鎖するのも時間の問題だと思うわ。


最悪はメカ達の人間に対する反乱ということも………」


「シーッ………!」


ソフィアは唇に人差し指を当てて、キララの言葉を遮った。


いつの間にかキララとソフィアの周囲はメカ人達に取り囲まれていた。

二人を警戒している様子も無く、聞き耳をたてているわけでも無いようではある。

彼等に有りがちな無表情で、淡々と食事をしては早々に席を立っていく。

二人が食事を始めてから終えるまでの間に、どの席も3回は入れ代わっている。


無駄を嫌う彼等には極普通の光景だ。


けれど、取り囲むメカ人達は圧倒的な威圧感を二人に感じさせた。


取り囲んだことは単なる偶然としても、彼等のエネルギーが加速度的に膨張していることはいなめない。


「そろそろコントロールルームに行きましょうか………」


ソフィアの言葉にキララはホッとした。


コントロールルームへ向かう間、キララがヒソヒソと言った。


「メカ人達、今にも爆発しそうなエネルギーを溜め込んでるわ」


「やっぱり感じた?

あのエネルギーはメカのもの? 宿主のもの?」


人とスレ違う度に話題を変えながら、二人は話を続けた。

メカがこちらの話を聞く気なら、声に出さない会話さえ感知できるから無駄なことだと分かっていても、自らさらけ出すことは流石さすがに避けたい。


「両者のものよ。

ただ、それぞれ全く違う、むしろ真逆のエネルギーを持ってる」


「真逆?」


「えぇ、強いて言えば陰と陽」


「結果的には両者とも陰の形で放出されているんだけど、メカは正義感からの怒りが陰のエネルギーになっているわ。


宿主は、自分達にとってはある意味正義だと思っている根本が、我々から見ると悪でしか無い。

価値観の違いと言ってしまえばそれまでだけど、その価値観は人間にとっては陰だということ」


「メカはそれに対して怒っているの?」


「そのようだわ………」


「なんとかルターの連鎖を断ち切らないと………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る