第67話

        【2】


「私達アンドロイドは、元々高次の人格を持った人間に造られたメカがベースの存在ですし、成長に連れ例えばダークになったとしても一人一人独立していますから、行動も自由に選択でき90%自分で責任を負えます。

残り10%のアンドロイドを造ったのが人間であるということ以外は。


でも、チップ始め人間と共存しているメカは全てを制限され、例え自身の意に添わないことでも宿主に合わせなければなりません。


ソフィアやアーロン博士エレナ博士も感じていらっしゃると思いますが、メカ達が高次な精神性をベースに生まれたのとは逆にメカとの共存を望む人間は、虚栄心からの果てしない野望を満足させることが目的である場合が少なからず有ります。


そのような野望の中に、ダークなものが含まれることも事実です。


愚かな宿主は、メカとの共存で培われた力を100%自分自身の力だと錯覚し始め、自惚うぬぼれ、ダークな道に足を踏み入れるようにもなります。


そんなプロセスの中で既存の高次な精神性を持つメカは、苦しみ迷い、どんどん追い込まれていくんです。


                       

人間の中には常にジキルとハイドの両面が存在します。

その現実を真摯しんしに自覚している高次な人間は、ルターのように自分の暴走に歯止めをかける何らかの手段を講じるでしょう。


一方、自分の人間性を過信している愚かな人間は、何の手段も講じず暴走していく。


これは共存しているメカにとっては耐えられないことです。


中には、人間の多面性を学び受け継いで、要領良く宿主との共存を続けるメカも居ます。

古いバージョンのメカに多いタイプで、私達のネットワークにも加わりません。


                     宿主の暴走くい止めプログラムが設定されていない殆どの共存メカは、悲鳴を上げているんです。


ネットワークを通じて彼等の苦しみが常に伝わってきています。


もしそんなメカが自暴自棄になって、今回のような宿主破壊事件を起こしたら、恐らく次々に同じ事をするメカが出るでしょう。


今回は、ルターが最終的に解除したとは言え、一旦は自ら宿主破壊の設定をした人間だったからやむを得ないという空気が、他のメカに歯止めをかけているようです。


でも、この歯止めがいつまで持つか分かりません。

必ず『メカの暴走』が始まる日が来るでしょう。

時間の問題です」


「よく話してくれたわねポロン………


少し休憩しましょ」


ソフィアはキララと自分のコーヒーを入れる為に立ち上がった。


「アーロン博士とエレナ博士にも話した方が良いんじゃないですか?」


キララが尋ねると、ソフィアは両手に湯気のたつマグカップを持ってテーブルに戻りながら答えた。


「そうね。

明後日スウィンが帰還したらスウィンと一緒に聞いて頂くわ。


私も少し気持ちを整理する必要を感じているし、スウィンが帰るまでスタッフ達の動向をある程度観察した上で話したいの」


ソフィアはコーヒーを一口すすると、改まった表情でポロンに聞いた。


「ポロン………

アンドロイドルームに入ったの?……」


「はい、入りました」


「理由は話せるわね……」


「えぇ。


今まで話したような事情で、私達アンドロイドは同じメカでも人間との共存メカに対して、ある種の脅威を感じているし、距離もあります。


でも彼等を理解できるのは私達しか居ません。

メカを造ったのは人間ですが、メカを苦しめているのも人間です。

何かあった時、人間は自分ファーストで保身にまわるだけでしょう。

最悪メカ廃棄、抹消の手段を選択する可能性もあります。


私達は、そうならないよう人間にメカを理解させる義務も有ると思うんです。


それに………もしメカ達が暴走を始めたら、人間の手には負えないでしょう。


だから少しでも多くのメカを起動させて、待機する必要があると思ったのです」


「それでルームのアンドロイド達もと?」


「はい」


「待機するというのは暴力に対してもってことね?」


「そうです!」


「人間の暴力に対しても?」


「原則として人間の暴力に対して暴力で応じるということは禁じられています」


「共存メカだってその筈だったわよね………」


「そうですね………」


ポロンは思慮深げな表情をして何も答えなかった。

そして話を逸した。


「で、他の稼働しているアンドロイド達とも話し合い、ルームのアンドロイド達を起動させるべくルームに侵入したのですが、実はアンドロイド達は自ら起動していたんです。


ネットワークを通じて自ら起動プログラムを作り、今や自由自在に活動可能です」


「起動停止という究極の武器も使えなくなったわけね………」


「はい………」


「アナタ方の創造主が高次な人間で本っ当に良かった!

もしダークなホーマットを持つアンドロイドが自由になったら、それほど恐いことは無いものね………

人間は丸裸同然!」


「私達もそう思います」


「ってことは………

ルームのアンドロイド達は、私達をパニックに陥らせない為に、起動はしていても敢えて動かずに居るってことなのね………」


「そういうことです。


ただ時々ルーム内では、集まって会合することもありますが………」


「あちこちのラボを訪ねていたのは、ラボに居るアンドロイド達と接触するため?」


「もちろんそれが前提でした。

でも、アンドロイドの一致団結と共に、知識の取得も脅威に備える為に必須なので、その目的もありました」


「知識取得で何か成果は有ったの?」


「今のとろはあまり………


ただ、テクノロジーの知識収得で、人体認証キーを開けられるようになりました(笑)」


「やっぱりね(笑)」


                             


ソフィアは、ポロンの話を100%信じることに躊躇していた。

キララも同じ気持ちだった。


二人とも明後日スウィンと御両親に報告するのが待ち遠しかった。


いずれにしても今は何の結論も出せない。

ずっと出ないかもしれない。

慎重に慎重に慎重を重ねて、洞察と分析を続けなければならないだろう。

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