第64話

        【2】


「じゃ、私はパーティに戻るわ」


アンドロイド達の、子供のように立ち尽くす無防備な姿に不安を抱きながら、キララはテーブルに戻った。


キララがソフィア達に報告している間、庭向きのベランダから不安げに中の人間達を見つめるアンドロイド達が見えている。


                        

結局この日アンドロイド達はパーティに参加しなかったけれど、キララはいつか全てを話してくれるだろうと確信してその時を待つことにした。


                      

それからはアンドロイド達がスペシャルルームを出ることは無くなった。


ケンタウルスとパンは今まで通り終日キララの庭で寛いでいたし、ポロンもキララの手伝いに勤しんでいた。

ただ時々3人が寄り添って会話する姿をよく見かけるようにはなっていた。

相変わらず続いていた報告会でも、そのくらいの報告がせいぜいだった。

だがそれだけでは、ただ仲良くなっただけとも言える。


それでもキララは、ポロンの迷いを知ってしまった以上、一見平安なこの状況を安らかな気持ちで受け入れることは危険だと感じていた。

そんな張り詰めた思いがスウィンへの思いに膜をかけ、アッという間に日々は過ぎた。


スウィンが帰還する予定日の前日、キララはスウィン帰還後の対策スタッフ会議に出席して数時間部屋を空け、ソフィアと一緒に戻ってきた。


ケンタウルスとパンが緊張した面持ちでアンドロイドルームの前に立ち、ポロンもドアの前で浮遊していた。


「あら、こんな所でどうしたの?」


「い、いや別に………」


ソフィアが声をかけると、明らかに狼狽うろたえた様子で3人ともキララの部屋へ戻っていった。


キララとソフィアは同時に同じことを考えた。

そして直ぐアンドロイドルームのドアを開けた。


ーーーーーポロン達がアンドロイドルームに入ったことはほぼ間違い無い。

何が目的?…………

しかもそれを私やソフィアに隠すどんな理由がある?

率直に入りたいと言ってくれればいつだって入れてあげたのに………ーーーーー


キララはパンドラの箱を開けるような気分で人認証キーの前にたった。

キーは問題無く作動した。


この人認証は、生の人間にしか反応しない筈だ。

チップを入れた人間ですらパスワード入力の手間が増える。

まして完全メカなアンドロイドが入れるわけが無い。


考えられるのは、アンドロイドの誰かがテクノロジーの知識を得て、メカである自分のテクノロジーを使い人認証無しで操作したということだ。

キララはその可能性が高いと考えていた。

ポロンがラボ巡りをしていたのは、その知識を得る為だったのか………


久しぶりに入ったアンドロイドルーム。

相変わらず静まり返っている。


死体のような『物体』が整然と並ぶ光景は、なかなか慣れることが出来ない。 


しかし、今回はいつもと違う感覚だった。

キララにもソフィアにもアンドロイド達が死体には感じられないのだ。


寧ろ『生』のオーラが充満している。


キララは手近なアンドロイドに触れてみた。

温かかった。


ポロン達はアンドロイドを稼働させていたのだ。


キララとソフィアは顔を見合わせて頷き合った。


それから二人で順番にアンドロイドの体温を確認していった。


100体程確認し、その全てが温かいことは分かったけれど当然どんどん冷えてきているわけで、膨大な人数を確認するより取り敢えず一人のアンドロイドを集中的に調べることにした。


キララは親友だったアンドロイド『ポーラ』を提案した。

ポーラなら話も引き出しやすいと思ったからだ。


キララとソフィアは早速ポーラを起動させた。


キララはポーラの入っているケースを程良い位置に降下させて、ケース後方の扉を開けた。


ポーラの起動スイッチは耳の後ろに有ったが、うなじ部分に有るプログラム設定の切り替えをするつもりだった。


取り敢えずパソコン程度のバージョンで、情報を引き出したかった。


意識プログラムを作動させると、様々な記憶が苦しみや哀しみの感情プログラムとリンクして厄介なことになる。

ポーラがあまりにも哀れだ。


まず意識プログラムをOFFにしてから起動スイッチをONにして、、パソコンバージョンでの情報を引き出しにかかった。


頭の付け根部分に有る小さな画面に


「誰?」


と文字が出た。


「キララ」


と入力する。


ポーラコンピュータは暫く、探ったり、試したり、情報を引き出したりしていた。


「キララ………私の大切なキララ………」


「そうよ! ポーラ! 私よ!キララよ!」


と、いきなり意識プログラムが自動的にONになり、どんどんレベルが上昇していった。


「おかしいわ……


プログラム同士が勝手にリンクしてる。 

プログラムニューロン、プログラムシナプスが出来ているのかも………


たぶん私の名前で情報コースを選択するシナプス的なものを組み込まれたか、自然発生したか………」


意識レベルが最高の『人間と同等』になった時、


「キララ!私よ! とんでもないことが起きてる! 助けて!」


と画面に表示され、突然プツンと意識プログラムがOFFになった。


そして、パスワード入力の画面が出た。


キララはいろいろなパスワードを試してみたが、全くハマらない。


遂には完全ブロックの表示が出て自動的に稼働OFFになった。


耳の後ろのスイッチでスタートアップ、シャットダウンも試したけれど、無駄だった。


キララにはポーラが死んだように思えた。


「大丈夫よキララ!

後で修理してもらいましょ!」


キララも気を取り直し別のアンドロイドで試すことにした。


しかし、既に他のアンドロイドも起動不能になっていた。

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